ドストエフスキー『虐げられた人々』

虐げられた人びと (新潮文庫)

虐げられた人びと (新潮文庫)

久々に読み直してみた.読後に色んなイメージが波のように押し寄せてきて参った.ドストエフスキーとしてはかなり甘い展開なのは確かだけど、この甘さも好きだ.おそらく昔読んだ時にはナターシャとアリョーシャの恋の顛末やネリーの境遇に注目していたように思う.が、今回は断然ワルコフスキー公爵.この人が出てくるたび、何か言うたびに本の中に引き込まれた.金の亡者で自分だけを愛するというどこにも共感できない嫌な人物なのに、どうにも目が離せない魅力がある.あそこまで徹底してればもうひれ伏すしかない.イフメーネフ老人も興味の尽きない人物だった.
ロシアを舞台に普遍的な人間世界を描いているという言い方がされるのかもしれないけど、でもやっぱりあの感情起伏の激しさはロシア人だと思う.日本が舞台なら、ああも急激に青くなったり叫んだり気絶したり泣いたり笑ったりする人物が次から次へと出てこないでしょ.そういう人は大抵変わり者として1人や2人登場するくらいで十分で、そんな人ばっかりだったらそれは既に日本じゃないって感想を持つと思う.