塩野七生『ハンニバル戦記(中)』

ローマ人の物語 (4) ― ハンニバル戦記(中) (新潮文庫)

ローマ人の物語 (4) ― ハンニバル戦記(中) (新潮文庫)

相変わらずおもしろい.会戦や戦略といったものにほとんど興味がない私のようなものですらワクワクしながら読み進めることができたのは、実際の歴史そのものが面白いということもさることながら、作者の文章力にもよるんだろう.
西洋史で習ったカンネーの戦いやら大スキピオ小スキピオなどお馴染みの単語が踊っているのもとっつきやすい理由のひとつだ.教科書では1行ですまされたカンネーの戦いは、今でも西洋の軍事教育では必ず学習される戦略らしい.
紀元前の戦いの様子がこれほど詳細に残っていることに毎度のことながら驚かされる.何年何月に誰がどういう構成の軍隊をどんな戦略でもって指揮したか、それが全てわかっているのもみな当時の学者が記述を残しておいてくれたからだ.文字って素晴らしい!
カンネーで大敗を喫し、ターラント、カプリ、シラクサを失った後のどん底状態にあったローマが、その後徐々に盛り返していく様には、何か不思議な感動が伴う.徹頭徹尾客観的なイギリス人が思わずわれを忘れて興奮するというのもわかる.
一番心を揺さぶられるのは戦いの様子ではなく、どれだけ負けようがローマ市民としての誇りをまっとうしようとする当時の人々の意思の強さと、孤立しようが略奪されようがローマ同盟から離脱しようとしなかった周辺都市との結束の強さと、苦境に立たされても同盟主としての義務を怠らなかったローマという国の強さだ.ちょっとこれは感動しますよ.
早く次の巻を買ってこなくちゃ.