七月歌舞伎座『十二夜』

作:シェイクスピア 小田島雄志訳より今井豊茂脚本
演出:蜷川幸雄
装置:金子勇一郎
照明:原田保


主膳之助/獅子丸実は琵琶姫 : 尾上菊之助
織笛姫 : 中村時蔵
大篠左大臣 : 中村信二郎
安藤英竹 : 尾上松緑
麻阿 : 市川亀治郎
役人頭 : 坂東亀三郎
従者久利男 : 尾上松也
海斗鳩兵衛 : 河原崎権十郎
従者幡太 : 坂東秀調
比叡庵五郎 : 市川團蔵
舟長磯右衛門 : 市川段四郎
左大弁洞院鍾道 : 市川左團次
丸尾坊太夫捨助 : 尾上菊五郎

楽しかった!
わくわくしながら舞台を見つめ続けました.
ほぼシェイクスピアの原作に忠実な物語が歌舞伎の世界に何の違和感もなくはまってた.
菊ちゃん、すっごい頑張ってたし可愛かった〜.
亀治郎、おもしろすぎ!


細かい感想はのちほど.



【追記】
4列目センター寄りという役者を見るにはもってこいの席にて観劇.今回舞台装置がおもしろかったので楽日に上から見るのが楽しみになった.

舞台全体覆うマジックミラーに客席が映し出される幕開きに一瞬会場がどよめいた.その奥に徐々に浮かび上がる満開の桜、バックに流れるチェンバロと鼓を融合したバロック風の音楽にのって少年たちが歌います.と、一転して大海原を浮かぶ船が表れ、その甲板に双子の弟に扮した菊ちゃん登場.すぐさま妹に早代わりと冒頭からあれもこれもの大盤振る舞いで、まさにつかみはOKといった出だしだった.


今回の『十二夜』は休憩2回の三幕仕立てで、驚くほど忠実に原作を再現してた.あとで筋書きを読むと、いろいろ試行錯誤の末、結局忠実に原作をなぞった形に落ち着いたそうだ.
そのせいか、特に歌舞伎という範疇でくくらなくても新演出の『十二夜』として他の劇場でかけてもよさそうな作品に仕上がっていた.その証拠にいつもならカーテンコールなんていらないと思うのに、今回ばかりは最後にカーテンコールが欲しかった.とはいっても単に着物でそれっぽい台詞を喋ればいいってわけでもなく、歌舞伎役者がやらないとこの味は出ないと思う.


実はこれこれこうでって隠してた正体を表す醍醐味とか、運命に翻弄される主人公とか、シェイクスピアの作品って歌舞伎と相性はいいと思う.マクベスとかおもしろそうじゃん.歌舞伎座ではなかなか難しいかもしれないけれど、どこかでまたやってほしいな〜.


舞台セット

室内の装飾にもふんだんに鏡を使用していた今回のセット.それぞれの部屋にあわせて鏡のふすまに絵が描いてあり、その絵をみることによって次の場面を予想することができた.アールデコ風な模様の欄干や燭台などわかりやすい西洋モチーフの取り込み方が歌舞伎っぽかった.
燭台のランプが本物の炎のように揺れてた!これって祇園祭でも話題になった最新技術を駆使したという電球を使ってたのかしら.
一面に花の咲いた庭も蜷川さん演出というよりは歌舞伎っぽい.ただ赤い太鼓橋をああいう風には使わないな.立体感があって良かった.
それから兄側の背景に登場した幕が気に入った.月や雲が浮世絵風のデザインになっているだけでなく、広重の東海道五十三次の拡大版に実際の人間が絡んでいたり、国芳の鯨が模型になって出てきたりと、浮世絵好きにはたまらん仕掛けだった.


台詞

いわゆる義太夫で語る場面はほとんど無し.その代わり普段歌舞伎では滅多にない「心情をべらべらとまくし立てるように述べる」独り言の台詞があちこちにあって、それを喋る歌舞伎役者ってのが新鮮でおもしろかった.(あ、そういや『源氏物語』で新ちゃんが半目でうだうだ言ってた記憶があるな…)
シェイクスピアが好きな掛詞や駄洒落のような台詞がちゃんと日本語で再現されていたのは良かった.そういう言葉遊びの部分は慣れない人にもわかりやすいように特に強調して喋ってた.

菊之助

主役で二役(実は3役に近い)を演じ分けないといけないという大変な役をきっちりこなしてた.男性である双子の兄と、本当は女性なのに男装している妹との演じわけがきっちりこちらに伝わってきた.
稽古シーンで蜷川さんに何度もダメ出しを出されてたシーンだけでなく、感情が高ぶると自然に声が女性になっちゃうところとか、なんの不思議もなく不自然さもなく女性と男性の間を行ったりきたりしてた.男性として立ってる姿と、男性に扮して立ってる姿ですら違いを出してたりと、細かいところまで行き届いた演技に感心した.
本来真面目でお行儀よくなりがちではある菊ちゃんだから、コメディーがどれほど笑えるものになるのかが心配ではあったけれど、お上品さを保ったままきっちり笑わせてくれたので安心した.

役者陣

筋書きを読むと皆さん「蜷川さんのおっしゃるように」という言葉を連呼されてました.普段とは勝手が違うとまどいが伝わるコメントだったけれど、いざ舞台を見てみたら皆さんしっかりシェイクスピア歌舞伎ワールドにはまってるじゃないですか.さすがだ.


菊五郎さんは本日(19日)の新聞記事によると稽古初日には台詞を全部いれてきてらしい.さすがだ.某太夫捨助の二役を楽しそうに演じてた.某太夫は召使側の重要な役回りを担っているのでいいとして、捨助のような道化というのは歌舞伎に組み込むのは難しかったらしい.シェイクスピアでは道化は定番で身分の差を越えた存在として言いたい放題できるけれど、日本の公家や武家の社会でそういった存在はいないんだとか.言われてみれば太鼓もちとは違うものねえ.なので舞台を日本としてしまうと身分というテーマが薄れてしまい捨助はさほど必要なキャラには見えなかった.


亀治郎の麻阿はやってる本人がとっても楽しそう.普段亀治郎を可愛いとか思ったことがなかったのに、今回はほんっとーに可愛かった.近くで見てると表情の変化とか凄いの.間の取り方もばっちりで、何かやってくれるんじゃないかってつい目が追ってしまった.

残念だったこと

菊五郎劇団だというのに立ち回りが全然無かった.