劇団☆新感線『吉原御免状』@青山劇場

【原作】隆慶一郎 【脚色】中島かずき 【演出】いのうえひでのり
【美術】堀尾幸男 【照明】原田保 【衣装】小峰リリー 【音楽】岡崎司
松永誠一郎…堤真一
勝山太夫松雪泰子
柳生義仙…古田新太
水野十郎左衛門…梶原善
高尾太夫京野ことみ
柳生宗冬…橋本じゅん
八百比丘尼…高田聖子
狭川新左衛門…粟根まこと
幻斎…藤村俊二

おっどろいた(@_@)
思わず懐かしの顔文字使っちゃうくらい驚いた.
ほんとに笑いがない!ネタがない!
正真正銘、最初から最後まで真剣勝負だった.いのうえ歌舞伎第二章は第二章と呼ぶにふさわしくかなり本気の大人化です.


会場にいってみるとD列上手側席というのは、ステージは近いし見晴らしも良いという予想以上に見やすい席だった.
いつもの新感線と違い原作があるので、1回目の今日はあの原作をどうアレンジしたかということが一番気になった.演技や演出よりもどの場面を拾いどの場面を捨てたのか、まずそこに注意がいってしまったのでもしかしたら原作未読のまま行ったほうが良かったのかもしれない.
3時間に満たないという新感線にしては短い上演時間によくまあまとめたものですね.ちゃんと説明しようとするとかなり複雑なことになりそうなクグツの特徴や吉原の成り立ちといったこの物語のベースとなる設定をうまく短時間に盛り込んでるのには感心した.帝の子であることの影響や柳生内の騒動といったあたりはかなりはしょって、比較的男と女の関係に特化した作りになっていたので、原作を読んで感じた誠一郎成長物語といった印象は受けなかった.誠一郎と勝山の悲恋大フューチャーだったので、誠一郎と義仙の因縁が割を食った感じ.役者はみなぴったりはまっていたのでどうせならじっくり3時間半くらいかけてやっても良かったのに.それだとさすがの堤さんも死んじゃいますか.


演出はというと、吉原の雑踏の表現に苦労のあとが見えた.演舞場を使いこなした経験が伺える回り舞台での場面展開の上手さは相変わらず.一瞬のうちに時代や場面が変わるのにすんなり入っていけた.セット、衣装、照明、音響など基本的なラインはいつもの新感線と変わりがないので、同じ手法で違う芝居というのにどこか慣れないというか、なんかもぞもぞした気分を味わいつつ見てしまったところはある.
でも最後の勝山太夫の死あたりからはそんなのどうでもよくなっちゃったけど.
決め台詞の前などに入るドーンという効果音をちょっと使いすぎなんじゃないかってのは最後まで気になった.やたらと使ってたもん.
原作があるっていうことは、結果として演出そのものに目がいくものなのね.今までの新感線はストーリー=演出に近くて2つをわけて考えたことがなかったから、その感覚が新鮮だった.


1回目は原作の脚色を追ってしまい芝居としての『吉原御免状』を租借することが難しかったので、展開のわかっている2回目からはもっと楽しめると思う.、


個人的に注目したかったのは衣装です.男性陣は概ねかっこよく決めてくれていた.これまでの新感線時代劇に比べると最もオーソドックスな着物だったんじゃなかろうか.堤さんは次々といろんな着流し姿を披露してくれます.古田さんもかなり普通.典型的な柳生十兵衛タイプなカツラに衣装だった.裏柳生の面々が最後の戦いでパッと黒装束の上を脱いだら白い着物に黒のタスキだったってのが目に鮮やかで効果的だった.
問題は花魁衣装です.オープニングは高尾太夫と勝山太夫の道中がすれ違うという歌舞伎では良く見る豪華絢爛シーンです.ここはもうありえないってくらい豪華にして目を眩まして欲しかった.どうせならシャンシャンと音を鳴らすくらいしちゃっても良かったのに.
魁道中に関しては玉三郎さん自前の八ツ橋や揚巻の衣装でしか満足できない身体になってしまったので(笑)、あれくらい豪華でないとたとえ歌舞伎といえどもショボッて思ってしまうのです.なのであの衣装じゃかなり物足りなかった.他の場面は動けないとまずいのでしょうがないのもわかるけれど、道中だけはこの際動きを無視して豪華に仕上げて欲しかったなー.
玉さんの衣装は是非こちら(http://www.tamasaburo.co.jp/gallery/index.html)でお楽しみください.特に揚巻、阿古屋、夕霧は素晴らしい.八ツ橋の衣装が無いのが寂しい.


役者はみんな良かった.原作読んでると普通は「えー、なんか違う」って思う人が少しはいるんだけど、今回はそれがなかった.もちろん原作から受けるイメージと違ってる人もいるけれど、それはそれでアリな状態までもってきちゃってたから問題なし.あ、おしゃぶだけは本当に子供にやってほしかった.それくらいだな.


いのうえ歌舞伎第二章の第1弾が堤さん主演で良かった.堤さんの持つどこまでも陽性でおおらかなオーラが誠一郎にはまってたし、劇団員の中に入っても若手にならないというのも大きい.
古田さんの義仙は思いのほか出番が少ないのが寂しい.驚くことに本当実徹頭徹尾残酷な男を演じてました.遊びが全くありません.
最後の堤誠一郎vs古田義仙の啖呵の切り合いは痺れるほどかっこよかったー!
立ち回りは言うまでもありません.途中にある2人の切り合いなんて間合のあまりの狭さにびっくりした.


松雪泰子の勝山太夫は吉原を出た2幕が断然良かった.1幕は役作りの一環だろうとは思うもののクネクネした立ち姿が花魁にそういうイメージがなかっただけに気になって気になってしょうがなかった.2幕での裏稼業の血と誠一郎を慕う気持ちがないまぜになった複雑さがはすっぱながらもかっこよくて、彼女の持つ薄くて冷たい感じにぴったりだった.
2幕といえばまさか焼けた鉄の棒を刺すところを再現しちゃうとは思ってなかった.どうせそこまでやるなら瀕死の状態ももっと残酷な描写にしちゃえばいいのにと思った私は鬼畜でしょうか.あの場面をやった割りには綺麗じゃんって肩透かしをくらってしまった.
『夜叉ヶ池』の時も驚いたけど、とても舞台経験が少ないとは思えないくらい発声と滑舌がいい.声にドスがきくのもいいね.


対する高尾太夫京野ことみは180℃違う性質なのが功を奏していた.原作の高尾から受ける印象とは違うんだけれども、男を包み込むことの出来る女性なんだなってのが伝わってきた.可愛いしね.


幻斎のおひょいさんはさすがとしか言いようがない.これまた原作の幻斎とは随分違うのだけれども、もうね、あの口調で言われたらどんな台詞も納得ですよ.
今回実はお笑い部分を担当してたのが善さん.軽い物言いや誠一郎をからかう調子に思わず笑いが漏れていた.アカドクロに引き続きのびのびと楽しそうでした.
じゅんさんが凄いかっこよかった.うわあってくらい真面目でね.実直で知的な武士になってました.
聖子さんもお色気担当の一端を担ってましたよ!ドキッ!聖子さんならではの可愛らしくお茶目なおばば様でした.
粟根さんはカーテンコールまでも殺し屋でした.殺し屋の目健在でした.ニコリともしないのがかえっておかしい.今回はメガネがないのに立回りが一杯でした.今でも粟根さんは裸眼で舞台に立っちゃうのかしら.怪我のないことを祈ります.


その他劇団員はというと、普通の台詞を普通に台詞を喋る右近さんとかね、始めて見たからびっくりした.飛び跳ねて台詞いってないんだよ.「ざんす」って言ってないんだよ.笑う場面じゃないのにおかしくておかしくて.


さて次は再来週です.今でも十分出来上がってるこの芝居がどう進化してるのか楽しみです.