ヴェニスの商人

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評判がいいとの噂を聞いて見にいってきましたが………
ayaちゃんも私も見終わった後は不満爆発.シェイクスピアの作品という意味では全然お勧めできない.
なんでこんなリアリティー溢れるシリアス映画になっちゃってんの?民族的宗教的配慮なわけ?それとも社会派からの新しいアプローチとでもいいたいの?
なんかさー、原作読んだときって、そりゃユダヤ人問題にはハァ??って気持ちは持てど、結局あれってポーシャのとんち話じゃん.機転をきかせて恋人の窮地を救うっていうどちらかというと爽快なお話だと思うのに、物凄い暗い気持ちで見終わった.
冒頭でいきなり当時のユダヤ人がイタリアの社会でどれほど迫害されていて権利をもぎとられていたかというクレジットが流れるの.それを見たときに嫌な予感はしたんだ.そんな言い訳じみたことを冒頭に流されたら身構えちゃうよ.
シェイクスピア当時のイギリス社会には今のような人権という概念も無かっただろうし、ユダヤ人=金の亡者という道具立ては当時の観客には説明抜きにわかってもらえる共通認識があったんじゃないの?簡単に効果的な敵役を作るシェイクスピアの計算と巧妙さっていうかさ、その程度のことだと思っちゃいけませんかね.
裁判で肉を切らせるために拘束するだけでなく口に物を詰める描写に引いてたところに(だってこの話でそんなリアルな描写をする必要性がどこにある?)、シャイロックに改宗しろときた.
あれ???なんで??改宗なんて原作になかったよね???
しかも最後はキリスト教に改宗したシャイロックユダヤのコミュニティーから締め出されているような描写まであった.もうわけがわからん.ユダヤ人というだけでシャイロックが理不尽な目にあわされるのは確かに今の時代から見ると納得できない.だからこそ、嫌われ者の頑固爺(ユダヤ人属性付き)くらいにしといたほうがキリスト教徒の行動に説得力あるんじゃないの?
あまりにユダヤ人ということを強調しすぎてて、バサーリオやポーシャ達が単なる人種差別から重箱の隅をつついていじめてるようにしか見えなかった.それはさ、原作の時点で多少は気づいちゃうことだから、そこをどうごまかして上手くまとめるかを楽しみにしてたのにー.

それから、アントニオとバサーリオってヴェニスを闊歩する野心と活気に溢れた若者というイメージだったのに、ジェレミー・アイアンズの神経質な青白い顔がアントニオを呼ばれた時点で、あれ?アントニオってバサーリオの親友じゃなかった?って大混乱.見えない.アントニオに見えない.あれじゃバサーリオの死んだ父親か何かに面倒みるように頼まれた保護者だよ.
婿選びのため箱選択とかもっと楽しいシーンだと思うのに、なんだかテンポが悪くてどうもおかしいと思ってたけど、裁判のシーンでこれは私の知ってる『ヴェニスの商人』とは別物だと確信した.最後の指輪のところとか、逆にこの監督はなにをどうしたくてこんな映画にしたんだろうって疑問で頭がぐるぐるしてしまった.
最後にポーシャ達が真実をばらすシーンだって、本来はバカップル3人のおめでたい楽しいシーンなわけじゃん.だから何も本当に明け方の暗い部屋でやらなくとも、ちゃんと煌びやかな明りで照らされたにぎやかな場面にしたっていいのに、このリアルさは一体どういうこだわりなんだろう.
せっかく時代設定とか風俗とかを再現したならば、もっと演劇的な演出で見たかった.大いに不満の残る映画でした.
ケネス・ブラナーがいかにシェイクスピアを上手く映画化してるのかが改めてわかりましたよ.