笠井潔『オイディプス症候群』

オイディプス症候群 (カッパ・ノベルス)

オイディプス症候群 (カッパ・ノベルス)

(ネタばれあり注意)
お久しぶりの矢吹駆シリーズ第5弾。旅行中に読みきろうと勢い込んで持っていったのに結局読みきれず、帰国後数ページずつ読み進めるうちに今の今までかかってしまった。
うーん、ちょい消化不要。私が期待してたものと提示してもらったものにずれがあったんでしょう。前作『哲学者の密室』があまりに素晴らしかったために、どうしてもそれ以上のものを望んでしまっていたのかもしれない。
孤島に閉じ込められた人たちが順に殺されていくというシチュエーションといと、本書の中でもリンクしてあったように誰もがクリスティの『そして誰もいなくなった』を思い浮かべるでしょう。
誰もが知っているあの話をわざわざ出すくらいだから、よほど自信を持って違うトリックが見られるのかと期待してたら、なんと地下にもう一人潜んでいたって、そんなオチですか。
繰り返し語られるギリシア神話クレタ文明のあれこれは興味のひかれる題材だった。そこに絡むいわゆるHIVかのように思われるゲイ癌と名づけられたウィルス性の感染症アメリカ大富豪の子息の誘拐事件と富豪夫人の知られざる過去。
ありとあらゆる素材がギュッと濃厚に積み重なっていき、それがガラガラと崩れていくところにミステリーの爽快さがあるのだと思うのだけれども、積みあがっていく時はワクワクしたのに解かれていくに連れ失速してしまった。
本を読むということは、それが喜怒哀楽のどれかであれ感嘆であれ、何らかの感情を揺さぶられることを期待しているのだけれど、今回はそれが無かったのが残念。単にナディアがあまり好きじゃないという単純な理由かもしれない。
今回駆は重要なことをすべて覗き見立ち見してて、そういうシリーズだったっけ?って疑問に思ってしまった。推理したことを防ぐのではなくあくまで傍観者として確認してるのが駆の立ち位置なんだっけ?
もう一度シリーズ第1弾から読み直したくなってしまった。京極シリーズは同じ分厚さでも軽く読めるのに、こっちはどうしてこんなに大変なんだろう。先は長いな。