Bernhard Schlink 『The Reader』

The Reader (Movie Tie-in Edition) (Vintage International)

The Reader (Movie Tie-in Edition) (Vintage International)

とてもとても後を引く作品だ。いまだに読後の余韻から抜けきれないでいる。読み終わってすぐにまた最初から読み直したくなった。
PART ONE, PART TWO, PART THREEと語り手の少年時代、青年時代、中年時代にHannaとどう関わっていったかが描かれ、どのPARTにもそれぞれのクライマックスがある。PARTごとに切り取っても1つの作品として読みうるんじゃないかと思ったくらいだ。
もともとケイト・ウィンスレットが出た映画ということで意識をした作品で、映画を見逃してしまったためせめて原作でもと思い手に取ってみた。映画はある種センセーショナルな宣伝をされていたので少年と熟女(?)の恋愛物語くらいにしか思っていなかった。まさかナチス戦犯に関わるこんな重い話だとは。
一番心にのしかかったのはこの作品のタイトルにも関係してくるilliterateということ。illiterateであることがばれるくらいならナチス戦犯の罪を負うことを選んだHannaのプライドと内包する明確な価値観にひどく衝撃を受けた。
たまたまこの本を読む前にilliterateを扱うテレビ番組を見た。北海道のある生涯学習センター的なところの読み書き教室を扱っていた
。生徒の中の60過ぎの女性は身体の関係で教育を受けることができずこの学校に通うまでまったく文字が読めなかった。私を含め現代日本で生活しているほとんどの人はまさか隣にひらがなも読むことができない日本人がいるなんて想像すらしないと思う。スーパーに買い物に行っても値札や赤札が読めない。面倒をかけたくないから人に聞くには嫌だとその女性は語っていた。番組の最後に彼女は半年かけた自らの手で書いた作文を泣きながら読んでいた。そこには文字を読めなかったことへの絶望と今読み書きができる幸せが切実な言葉で綴られていて、聞いてるこちらの胸まで熱くなった。
読める書けるという当たり前のように思っていることがどれほど人間の生活を豊かにしていることか。今の世の中でilliterateであるということがどれほど人を傷つけるのか。それを目の当たりにした直後にこの本に出会ったために、通常以上にHannaの心に同調してしまったと思う。
PART THREE、服役中の彼女は文字を習う。そして朗読テープを送ってくれている語り手の彼に初めて手紙を送る。彼はHannaの努力を誇りに思いつつも、自分の人生に彼女を入れることを拒んだ。どれだけ彼女の手紙が届こうとも返事を書くことはなかった。あれだけ頑なだった壁を取っ払い読み書きの喜びを知ったHannaがどんな思いで手紙を書いたか。どれほどの期待と希望をこめて返事を待ったか。あれは単なる手紙ではない。Hannaのこれからの希望と人生が詰まったものだった。
これでもかというドラマティックな設定を用意しながらも、一人称とはいえどちらかといえば感傷的な描写を廃し観察日記のように事実を書き連ねているといった印象の強い作品なのでメロドラマ調にはなっていない。そこが好きだった。
ぜひとも再読したい一冊。