ホリプロ『ハムレット』@世田谷パブリックシアター

野村萬斎ハムレット 
篠井英介:ガートルード
吉田鋼太郎:クローディアス
中村芝のぶ:オフィーリア

増沢望:レア―ティー
横田栄司:ホレイシオ
植本潤:劇中妃
大森博:オズリック
品川徹:司祭
大友龍三郎:マーセラス
沢田冬樹[文学座]:ローゼンクランツ
大川浩樹:ギルデンスターン

鈴木 豊:フォーティンブラス
哲也:隊長
朝廣亮二:役者
鍛冶直人:バナードー
松川真也:フランシスコ―
時田光洋:兵士
壤 晴彦:ボローニアス
津嘉山正種:亡霊、座長、墓堀

何よりもまずセットが凄かった.先王の幽霊のシーンはほぼ天井から声が降ってきた.ヨーロッパの古い書物の表紙のような四角い扉が開くたびにそこに違う世界が現れてるので、扉が開く瞬間をワクワクと待ってしまった.扉絵は9個の四角に区切られ、それぞれにいわゆるvaniteを描いた静物画が描かれていた.黒と赤という強烈な2色と金色が上手く配置され、きらびやかでありつつ威厳を保った王家の雰囲気がシンプルな形で表現されていた.

このシンプルさは衣装にも見られたように日本風を意識したのかしら.キャストは全員日本人、演出・美術等はイギリス人という変則的なカンパニーならでは美しいものだった.幸運にも比較的前の席だったので衣装もばっちり観察できた.特にクローディアスやオフィーリアの衣装に日本の装束が取り入れられていた.クローディアスの袴はまさに能衣装だったし、オフィーリアの薄衣やほのかな色使いは夏の着物のようだった.王妃のドレスはどれもシルエットがきれいで、柔らかい素材のオフィーリアの衣装とは対照的にカッチリとした素材感が王妃らしさを良く表していた.

ほとんど音楽を使わない演出の中、場面のアクセントとなっていたのは4人の黒子.スタイリッシュな黒スーツに身を包み、時には扇を持ったりしてモデルのようなポーズで静止している姿はなかなかにかっこよい.

萬斎さんのハムレットは変な落ち武者風カツラがいただけない.なぜ地毛ではいけないんだろう.ポスターの写真がとても良かっただけに残念だわ.ハムレットとして一定上のレベルにはいってたと思う.ただ長台詞を早口で言われると何を言ってるのかわからないのが惜しい.吉田さんなんかだとどんなに早口でもちゃんと聞き取れるんだよね.狂気と正気の差があまりない熱いハムレットだった.まあ、ハムレット自体よくわかんないんだけどね.全身全霊を込めて演じてるっぽくて、最後なんてこんなの続けたら命縮めるよって思ってしまった.

吉田さんのクローディアスははまり役.今回も凄いインパクトで苦悩するクローディアスが出来上がってた.声の説得力が凄い.

女形3人はみなさん圧巻でしたね.王妃の篠井さん.すらっとしたスタイルにドレスが映えてなんとも美しい王妃でした.「男が演じる女」という女形の基本をきちっと抑えた演技をされていたのはさすが.

対照的に女の子そのものだったのが芝のぶちゃん.最近歌舞伎座で見たのはしっかりものの女房風な役が多かったけど、今回はまんま少女だった.さすがにこう近いと腕のあたりに男を感じたけど、遠目から見たらさぞかし華奢な女の子に見えたでしょうね.芝のぶちゃんは声も女の子みたいだから知らなかったら絶対騙されるわ.1幕のまだお父様の言うことを聞く純な少女の頃は、あの間延びした台詞回しに「作りすぎ?」と思わなくもなかったけど、2幕の狂った演技は素晴らしかった.オフィーリアの唄も痛々しくて1幕とはまるで別人のようで、それがオフィーリアの悲劇をより象徴してて良かったなあ.ただあの衣装はどうでしょう.せっかく1幕可愛い衣装着てたんだから、2幕でいきなり薄汚れたカーディガンというスラムの小娘みたいな格好にしなくても….汚れたドレスくらいでいいじゃん.

実は一番のお目当てだった植本潤.出番が少なかったのは残念だけど、さすが劇中妃では見せてくれましたよ.全員白一色の衣装にカツラ、顔の中心だけ白く塗った役者達が文楽の人形のように舞うという演出もおもしろかった.水をえた魚のように動きまくる植本さんを見て笑いをかみ殺すのに大変!最後は可愛らしい女官の役で登場.レアティーズとハムレットの戦いの後ろで「キャーッ」と高い声で叫んでるあたり本領発揮といったところか.

毎度おいしい役だと思うホレイショーを演じていた横田さんはラテン系のいい男で目の保養でした.その他、ポローニアス、オズリック、マーセラスあたりのベテラン勢は言うことなし.