蜷川幸雄演出 『エレクトラ』@シアターコクーン

作:ソフォクレス 翻訳:山形治江 演出:蜷川幸雄

大竹しのぶ 岡田准一 波乃久里子 山口紗弥加 原康義 塾一久 月川勇気

V6の岡田君が出るというのでやな予感はしてたけど案の定客層が違ったわ.周囲を含め、あきらかに芝居ではなく岡田君を見に来たファンが多かったのが残念だった.生の岡田君が見られて嬉しいのはわかるけど、そういうのはどうぞ心の奥底でひっそり味わってほしい.

さて、本編はというと終演直後の「ねえ!ハムレットの男の子はこんなに下手じゃないんだよね!?」というayaちゃんの一言がすべてを物語ってるでしょう(ちなみに彼女は芸能界に疎いので岡田君も藤原君も知りません).そして私はというと「大丈夫、藤原君は舞台ちゃんとできるから」と不安がる彼女に慰めの言葉をかけるしかなく.

いやね、岡田君はどっちかというと好きだし、もう少し期待してたんだけどなあ.とりあえずML席では彼の台詞の半分以上が何言ってんだかさっぱり聞き取れなかった.これは致命的.なんであんなに滑舌が悪いんだ.しかも彼が出てくるとそれまでの空気をぶち壊すんだよね.うーん、オレステスをちゃんと自分のものにしてないような気がしてならない.なんとなくおきれいにまとめて「舞台ってこういうもんでしょ?」って形だけ決めてるふうにしか見えなかった.自分の意思がなくエレクトラの熱に流されるままのオレステスって演出なら成功かもね.えーっと、岡田君はどちらかといえば好きなので敢えて擁護意見を書くとすれば、体のキレとかポーズは美しかった.見られるということに慣れているなあって感心した.舞台に立つ華は十分あるんだから、あとはそういう身体能力に感情とか台詞まわしがついていけばなあ.がんばれ.

大竹しのぶはさすがだった.あの緩急のついた台詞まわしについ引き込まれる.ギリシア悲劇のあの膨大な台詞に飽きさせないテクニックがすごい.特にオレステスが死んだと聞かされた後が良かった.でも寺島しのぶのほうが鬼気迫るエレクトラで好みだなあ(映像での印象だけだから実際はわからんけどね).

波野久里子のクリュタイムネストラも思ったよりはまってた.山口紗弥加は怒れるクリュソテミスといった演出で最初の登場からして驚いた.大竹しのぶと五分に張り合ってたのは立派だ.これであともう少し声が通ればもっと良くなるのにもったいない.セットや衣装やコロスの扱い方とか、まあいつもの蜷川さんって演出で目新しさはなし.

ただ、お話としては『グリークス』のエレクトラオレステスのほうがもっとドラマティックだった.

グリークスの時はオレステスエレクトラ両方がちょうどイーブンに描かれていたのが、今回はシンプルな演出のまさに台詞劇といった趣向でオレステスは味付け程度の扱いになっていた.ピュラテスなんて一言も台詞ないしオレステスとの関係性はまったく無視されていて、エレクトラの復讐劇一点のみに焦点があたっていた.だからこそ岡田君で良かったのかもしれないけど、でもちっとも放浪した雰囲気をまとってなくてエレクトラの再会シーンもなーんかボケちゃってた.多分グリークスのあの2人を見てなければこれはこれでほぉーって思ったかもしれないけど、しのぶ姉さんと菊ちゃんは、もともと実の姉弟ってことをさっぴいても「運命」ってのが後ろに見えたもの.というわけで個人的な趣味でグリークスに軍配.いや、十分おもしろかったんだけどさ、なんていうかカタルシスが無かったなあっと.

えーっと、今回のがソフォクレス作でグリークスのがエウリピデス作ってことなのかしら.ソフォクレスのほうは斜め読みしたからエウリピデスのほうを読んでみよう.今更ながら寺島姉弟白石加代子が見たかったなあって後悔.

今日の目撃情報は、うーん、多分市村さん来てなかったか? あとDeux Magotsでお茶してる時に関係者らしき人たちと小西真奈美がいた.蜷川さんは1Fの一番後ろで見てた.