蜷川演出『リチャード三世』

日生劇場

リチャード三世:市村正親

香寿たつき:アン 瑳川哲朗:バッキンガム公 高橋長英:次兄クラレンス公 松下砂稚子:マーガレット 東恵美子ヨーク公爵婦人 夏木マリ:エリザベス 仲恭司:リーヴァース卿 菅生隆之:ヘイスティング卿 手塚秀彰:ラトクリフ 青山達三:ブラッケンベリー、ヘンリー六世の亡霊 妹尾正文:スタンリー 大川浩樹:ケイツビー

直後の感想を日記より抜粋↓
戯曲を読んだ時には、人間関係のあまりの複雑さにリチャード三世がのし上がっていく様子はわかったものの、「で、これ誰?」の連続だった.舞台にあがれば一応生身の人間が演じるのだから、次から次へとエドワードが出てこようともさすがにわかるだろうと高をくくってたら、実際に演じられてもさっぱりわかんないことに驚いちゃった.


リチャード以外の登場人物の衣装がどれも似通っているだけならまだしも、役者の顔まで判別つかなきゃ本を読んでるときと状況が変わんないじゃん.蜷川さんはどこからこうも似ているひげ面やてっぺん禿の役者を集めてくるんだろう.


ライバルを次から次へと追い落としていく1幕目は本当に難しい.台詞も真剣に聞いてないとどんどん通り過ぎていってしまう.その分リチャードが王位に付いてから転落するまでの第2幕は非常にわかりやすかった.市村さんのリチャードはおかし味があって憎めない.「意外と感動するもんだね〜」っていうのがayaちゃんとの共通感想.ドラマティックとはまさにこのことか.
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オープニングそうそう天井から馬が降ってきた.
ちょこちょこと蜷川芝居を見るようになると、蜷川さんの演出の特徴が徐々にわかってきた.
通路を使ったり物を落としたりといった逸脱しないケレンミと、時として滑稽なほどの大仰な演技パターンが古典には本当に良く似合う.オーソドックスでありつつエンターテイメント性も含んだ古典芝居を見るなら蜷川演出を選んで失敗なないんじゃないかとすら思う.


今年は4本の蜷川芝居を見た(いつ休んでるの?).トータルで見て一番まとまりがあって平均レベルの高い芝居は『ペリグリーズ』でしょう.『リチャード三世』はカンパニーというよりは個人技でひっぱっていた芝居だった.市村さんのリチャードがとにかく素晴らしい.リチャードがこんなに魅力的な人物に映るとは正直戯曲だけではわからなかった.カーテンコールの最後の最後までリチャードだった市村さんに完敗です.

男優陣が比較的まとまっていたのに比べ、女優陣がなあ.夏木マリは良かった.が、他の人が弱い.シェイクスピアの中でも最も策略や欲望がうずまく芝居の一つなだけに、やりすぎなくらいの濃い芝居がぴったりくると思うのに、なんだかみんな薄いんだもん.ほかが濃いだけに余計に物足りなく感じてしまった.

1幕は人物関係をちゃんと把握していないと厳しい.誰が誰で、何故殺されていくのか、めまぐるしく変わる状況についていくので精一杯だった.っていうか、ついていけてなかったし…
後半の転落模様はおもしろい!『オセロ』あたりの嫉妬を扱ったドロドロは苦手だけど、『リチャード三世』のようにひたすら権力欲に振り回される男達の悲劇を見るのは意外と爽快なものだ.