第38回『ある隊士の切腹』

素晴らしい.
一つのお話としての完成度が凄い.
この45分だけ切り出しても十分成立するくらい隙のない出来だった.
最初にいきなり切腹準備の出来た隊士の後姿を見せて「え?誰?」と視聴者をびっくりさせてから、徐々に顛末を語るという構成も上手く作用していたし、登場人物全員の立場や感情も見事に描かれていた.
河合に叙述させていたことにより土方や武田の気持ちをさりげなくフォローさせてるあたりも上手い.


これは新見切腹回に勝るとも劣らない出来だ.


河合切腹に関してはTV版壬生義士伝で耐性がついていたので、あまりの展開の上手さに唸ってはいたものの、特に泣けるとかはなかった.


河合が何故切腹しなくてはならないのか、その理不尽さに対するやるせない想いと、法度にがんじがらめになりつつある新選組という組織の空しさバカバカしさを視聴者が感じてるあたりで、まさにそのことを冷静に伊東に言わせてしまう残酷さが効いていた.その伊東の視線の先には違うレイヤーではあれ、やはり空回りしている近藤の姿があるわけで、新選組の今後を予見するには十分な演出だった.
河合がやけに藤堂と絡んでいたのは今後の伏線か.


かなりやりきれない展開の割りに平気で何度も見返すことが出来たのは、特に誰かが悪いというわけでなく歯車が狂ってしまったというか、ひとつボタンを掛け違えてしまったことによる悲劇という描かれ方をしていたせいかもしれない.
保身に走るずる賢い武田にしても、本を眺めて得意そうに語るあの顔を見たら憎めない.そして八嶋さんがまた上手いんだなあ.土方に捨て台詞吐かれた後の表情が良かった.


大倉君は言うまでもない.特別に感情を荒立てたりすることのない演技で、河合の「何がなんだかわからないうちに切腹することになってた」という状況を上手く表現してた.八嶋さんとのコンビもいいね.テレビ雑誌のインタビューで「こんなに小劇場の役者が出る大河は珍しい.「ニセの大河」と呼んでたら八嶋さんに「ありがたいと思わなきゃだけだ」って怒られた」*1って言ってたのがなんとも微笑ましいじゃないですか.


山本君がスタパで「視聴者の方には見づらい」と予防線を張っていた土方も、びっくりするほどフォローが入ってて全然大丈夫だった.土方ファンとしては逆にここまでフォローされると却って反感買うんじゃないかっていらぬ心配までしてしまったくらいのフォローぶり.


斎藤とのやりとりが良かった.
「近藤さんに出来ることを何故あんたができない」「それは俺の役目じゃねえ」
局長に全幅の信頼が行くように土方は絶対に甘い面を隊士に見せないのね.こういう寄せ集めの組織において部下の拠り所がNo.1とNo.2へ分散しちゃまずい.
No.2が憎まれ役になることで相対的にNo.1の優しさや威厳が際立つというもの.
おかげで「近藤さんさえいれば」という想いを皆が強く持ったわけですが、来週の展開を見てるとそうも言ってられないようで、これから落日の一途ってことか…


山本君はどんどん表情が変わってきてるね.浪士組の時は上昇志向とやる気で目をむいた上目遣いが多かった.新選組になってからはいつも気を張って眉間に皺を寄せた緊張した顔が多かった.今日はそういう気張りがなくとても静かな表情だった.表情を無くすほどの毎日だと思うとそれもやるせない.


そして今日は源さんの有り難味をしみじみと感じる回だった.


沖田と斎藤って表裏一体なんだなあ.「人を斬るのは飯を食うのと一緒」と言っていた斎藤が初めてそういう自分に疑問を感じ始めた頃、沖田は剣の道に生きる決心をする.両人とも好きなので辛いところだ.沖田はこの後どんどん孤独の世界に入っていくのだろうか.


私の涙腺はとにかく沖田に弱い.今日も河合については全然平気だったのに、冒頭沖田が喀血するシーンでは思わず涙ぐんでしまった.なんでだろう、いたいけな小動物っぽくて、どんな憎まれ口叩いてもどんな我がまま言っても全部許せちゃう.
土方は思い入れが強すぎるせいかハラハラすることが多過ぎてとても泣くどころじゃないの.


こんな回だというのに、左之助が綺麗な着物を着ているのに驚いてみたり.

*1:NHK公式サイトのインタビューでも同じこと語ってますね