Team ARAGOTO『エビ大王』

作:洪元基(ホン・ウォンギ) 演出:岡村俊一

筧利夫 サエコ 橋本じゅん 河原雅彦 伊達暁 佐田真由美 こぐれ修 円城寺あや 佐藤アツヒロ
武田義晴/康 ヨシノリ/チョウソンハ/平沼紀久/赤塚篤紀/三浦祐介/松本有樹純/大竹 篤/大前光範/大岩主弥/中坪由起子/五十嵐りさ/池田実香/草野小夜架/児玉絹世/黛英里佳/柳田陽子/西林素子

イヤな話だったなあ.この物語はどこが面白いの?
男尊女卑や家父長制度の横行に8割方むかっ腹たてつつ見る羽目になった.
見ている女性は不快感なしに観劇できてるんだろうか.これってむしろ私が表層でしか受け取れない鈍感人間ってことなの?
断っておくが役者はみな良かった.大抜擢とも言えるサエコですら良かった.


エビ大王の不幸は全て自分が招いたことで、因果応報というべき彼の生涯そのものはギリシャ悲劇的なドラマティックなものなんでしょう.
エビ大王はかつては賢王だったのか?それとも単に血筋だけで敬われていたのか?
芝居の中で表現されるエビ大王は為政者として一つとして良いところがない.ただ息子を望み、息子に王位を譲ることに固執しているだけだ.そして男ではないというだけで娘達を人とも思わず、娘を捨てたことを最後まで省みることがない.
唯一自分の息子を産めるという運命の女が、かつて捨てた実の娘パリテギだとわかった時も、自分の運命を呪うのみで彼女を捨てたことに対する謝罪は一つとしてなかった.この娘に対しては幸せを願っていたが、じゃ、その前に自ら殺した6番目の娘はどうなんだと.全て彼女の野心を上手く使えなかった王の狭量さが招いたことではないのかと.
パリテギがラスト近辺に「女だって人間なんだ!」と叫ぶ.パリテギのその一言でそれまでの2時間のあれこれを精算させようというのだったら、それは甘すぎる.死ぬ前にパリテギに向かい「種をはぐくむ母となれ」と言うエビ大王.彼はそれまでにいくらでも変われる契機はあったというのに、結局息子を得ることが出来ないという絶望無しには変わることが出来なかった.最後までなんとまあ自分のことしか考えない小さい男なんだとあきれてしまった.
そんな小さい男に対し国を託そうとする民が大勢いることがどうしても理解できなかった.政を放り投げ、国を荒廃させ、息子を作るために女とやるしかしなかった男のどこに国をまかせられる何かがあるというんだろう.それが血で受けついできた「エビ」という名前だとしたら、そんな国は滅びて当然だ.ま、だから滅びたんだろうけどね.


韓国人の同僚の話によると、韓国ではいまだに女性がバリバリ働くことについては否定的なんだそうだ.彼女自身、大学の同級生は彼女以外皆働いていないらしい.しかも「なんで働いてるの?」って同情の目で見られるのだとか.そういうことを普段から聞いていたので、この物語を単に古代の出来事として受け取ることができなかった.
日本でも歌舞伎や文楽といった古典劇では女性の立場は非常に弱く、時代物では政治の道具として扱われることが多い.ただ今の私から見ればそれはあきらかに作り物であるし、これらの演劇は様式主義であり、決まりに従って作ってあるところも多い.だから見ている側はどれほど悲惨な物語でも安心して客観的に見せ場を楽しむことが出来る.
あと言葉の使い方が日本と違うなと思った.「女は必要がない」ということをこれでもかというくらいひどい言葉で明け透けに言う.日本だったらそういった言葉遣いはある特定の登場人物を特徴づける性質として付け加えられる類のものだと思う.ところがこの戯曲では男は皆同じことを言う.あの世界では女を蔑み女を道具としかみなさないのが男だと言われ続けているようで、だから凄く嫌な気分になった.血が大切だということはイヤというほど伝わってきたけれど、愛情がどこにあるのか全然わからなかった.この戯曲は韓国ではどういう位置に属するものなんだろう.私達が古代の芝居を見る時のリンク感の無さみたいなのを感じながら見るものなんだろうか.
「荒事」というコンセプトがあったので、そういうつもりで見にいってみたら全然違うものが提示されてしまった感じ.じゅんさんと河原さんの死神コンビがいなかったら最後まで見ていられなかったかもしれない.


というわけで、戯曲はまったく趣味に合わなかった.ただ上に書いたように役者の皆さんはどっちを向いても良かった.演出もたまに音楽にん?って思ったものの基本はカッコよさを追求した作りになっていて、こと戯曲のあれこれさえ忘れれば非常に楽しいものだった.
じゅんさんと河原さん、多分回を重ねるごとにアドリブが増えてるんじゃないかっていう遊び具合が絶妙でした.
もともと持ってるカラーが全然違う二人だからこその面白さがあった.
「こんなカツラずれてしまえ!」とじゅんさんを抱え込んでカツラをぐらぐらさせる河原さんに「世の中にはやっていいことといけないことがある!」と焦るじゅんさん.
このコンビ凄い面白いよ〜!