花よりもなほ

『花よりもなほ』オフィシャルサイト


いい映画でしたね〜.
是枝監督の作品の中では断トツにエンターテイメント性の高い作品でした.
波に乗るのにすこーし時間がかかったけど、一旦リズムを掴んだたらあとはあっという間だった.


岡田君の宗左衛門は主役なんだけれども、なんていうのかなあ、観客の視線の代表者といった役割を担っているように思えた.岡田君の目を媒体としていろんな生を目撃したような、そんな気分になる映画だった.
父の敵を討つことだけを目的に生きている家族の姿、名前を替え子供にケンカをするなと教える良き父親となっている仇の姿、仇を討つことだけが親孝行ではないという叔父の姿、どん底の生活の中でも楽しみを見つけ切り替え早く行きぬいていく長屋の住人の姿、ちょっとずつしか登場しない人物でもしっかりと肉付けしてありふとした言動でキャラクターが伝わってくるのはさすがだ.


あだ討ちの三重構造の盛り込み方が上手い.武士として対極の選択をした宗左衛門と赤穂浪士を同じ長屋に置いたことによって、武士の生き方の違いだけでなく庶民の強かさとあだ討ちに汲々とする武士の滑稽さが浮き彫りになっていた.
宮沢りえ演ずるおさえもまた仇を持つ身であると知らせるタイミングが抜群.おさえが宗左衛門に言う「父親の人生が残したものが憎しみだけであったら寂しすぎる」という一言が最初は唐突に響いた.が、二度目に同じ台詞を言う時には彼女の体験から出た真実の言葉であることがわかるので、それを聞く宗左衛門の表情にちゃんと同調することができた.


人が生きるということは必ず何かを残していくということ、自分が何を受け取り、そして何を残していくのか.影響を及ぼさない行為なんてものは存在しない.その中で何を拾い上げるか、何を選んでいくのか.
宗左衛門があの3年で見て学んで選んだ結果が最後のあの笑顔なんだ.良い顔で笑えてよかったねって素直に思えるラストでした.


さてキャストはというと、浅野忠信寺島進夏川結衣遠藤憲一あたりの是枝映画にはお馴染みの役者はもちろん、それ以外の役者も適材適所、特にお笑い組の使い方が上手かった.キム兄やん最高.
でもって古田新太の出番の多さに嬉し泣き.なんかちょっと出来る奴って感じで素敵でした.
岡田君は物静かな雰囲気が似合ってた.ボサ髪はOKだったけど月代が死ぬほど似合ってなかったのが残念.
宮沢りえ田畑智子は文句なしの安心感.それぞれが持ってる色が上手く活かされた配置でした.
遠藤憲一田中哲史&中村有志赤穂浪士は真面目にやってるのにおもしろ風味.上手いね.
びっくりするほど色男オーラを放ってたのが加瀬亮.そりゃおのぶも惚れるしおりょうも忘れられないだろうって.どっちのファンの人にはえーーって言われるだろうけどすごくオダジョー君に似てた.見終わった後同じこと喋ってる人がいたからそう思ったのは私だけじゃなさそう.おりょうとそで吉の逢瀬は切なくて泣けますわ.


音楽がいい.ケルト音楽風味のサウンドがざらざらした絵に軽快さを与えてた.