畠中恵『ゆめつげ』

ゆめつげ (角川文庫)

ゆめつげ (角川文庫)

若旦那シリーズでおなじみの作者の別作品.時代は江戸で時代劇ではあるものの幕末の動乱時期が舞台です.金持ちの息子探しがきっかけで起こるある種の密室殺人物で、一体誰が犯人なのか?息子は誰なのか?彰彦の狙いは何なのか?と幾つもの謎が重なって飽きさせません.今回妖怪の代わりに弓月の夢告という不思議が登場します.のんびり屋でアグレッシブなとこが全然ない癒しキャラを描くのが上手いですね.血気盛んな浪人が徘徊し刃傷沙汰が起こっているというのに常になんだか穏やかな空気が漂っているのは主人公のキャラの影響が強い.個人的には、せっかく魅力的なキャラ満載なんだから政治話と絡めないでほしかった.特に幕末って今と一番近い時代劇世代だから、現代を匂わせられるような場面が出るとふと我に返ってしまう.特に彰彦さんの目的はちょっと残念だった.いくつになっても社会的な視点が持てない、というか持ちたくない意識が強いんで、こういうテーマは得意じゃないんだー.