NODA・MAP第15回公演『ザ・キャラクター』

作・演出 野田秀樹
マドロミ:宮沢りえ  家元:古田新太  会計/ヘルメス:藤井隆  ダプネー:美波  アルゴス池内博之  アポローン:チョウソンハ  新人:田中哲司  オバちゃん:銀粉蝶  家元夫人/ヘーラー:野田秀樹  古神/橋爪功

なんと最前列ど真ん中.集団群舞が目の前に迫ってきて怖いっ!
開演前に劇場のお姉さんが「演出によっては水がかかる可能性がありますが成分は普通の水道水なのでご安心ください」という斬新なアナウンスをしていた.何度も水をかけられそうな芝居を見たけど成分なんて気にしたことなかった!

ラストのりえちゃんの涙の台詞を目の前で聞いた衝撃からしばし抜け出せず.りえちゃんの台詞を聞いてる美波ちゃんの表情も素晴らしいの.オウムのサリン事件を扱ったテーマは説教臭いのがとことん苦手な私には本来苦手なはずなのに、そして見てる最中は比較的冷静に見てたはずだったのに、芸劇のあの長いエスカレータを下る時になって目が潤み気を緩めると震えそうになった.
今回最初の挨拶は別として、その後2回拍手に推されてカーテンコールがあったけれど私はカーテンコールが辛かった.終わった直後の役から抜けたはずなのに役のままの役者陣の表情を見てるのが辛くて、呼び出すのが申し訳ない気もして、1回のカーテンコールのみで席を立ちたくなった.
ベトナム戦争を扱った『ロープ』がほんっっっとーに苦手で、あれは別の意味で席を立ってしまった芝居だったけれど、今回は突きつけられたメッセージが重過ぎてカーテンコールの役者を受け止める力が自分になかった.最前列という役者の息遣いや涙や汗まで見える場所だったから余計にシンクロしてしまったのかしら.これ遠い席だったらふーんって思っちゃったのかなあ.
儚さの中の夢、俤の中の弟、幼さの中の幻、野田さんが日本語でしか伝わらないメッセージにこだわっているのは毎回のことだけれど、今回はそういう言葉遊び(遊びという言葉は語弊があるか…)と伝えたいメッセージの融合がいつもほど暑苦しくなく、私のようなちょっとしたことでも説教臭いわって敏感に感じてしまう人種にもストレートに入ってくることができた.何度も繰り返された「筆一本で世界を変える!」という言葉を実際に筆一本で勝負をしかけている野田さんがどういう思いで書いたのか.
「書く」という作業がメインの書道教室を舞台としたことで言葉へのつながりが自然に感じられたことと、ギリシア神話を絡めたことで神話の世界の関係性と社会から分離してしまった独自世界ならではの関係性がこれまた自然に感じられた.『ロープ』での泥臭さが随分と洗練されて、野田さんの怒りとか思いとかが以前より鋭利なナイフのような切れ味で迫ってきてる気がした.『ロープ』はとりあえず鈍器でガシガシ殴っとけみたいなイメージだったの.

配役も絶妙.感情の起伏もなく責任感のかけらもなく口からでまかせの理想だけを信じてしまう家元が古田さん.この感情の無さがなんとも怖い.人生経験からくるいい加減で世渡り上手なクロノスの橋爪さんが緊張を緩めたり締めたりとさすが.弟を思う愛情と信じる心に支えられた強い女性をりえちゃん.最後に「幼さ」を指摘することのできる彼女はやはりとても強いと思う.