『ニンゲン御破産』@シアターコクーン

作・演出:松尾スズキ
中村勘九郎吹越満阿部サダヲ片桐はいり浅野和之田畑智子/秋山奈津子/松尾スズキ宮藤官九郎小松和重/伊藤ヨタロウ/杉村蝉之助/荒川良々田村玄一皆川猿時池津祥子猫背椿近藤公園/竹厚誠/桃山由季絵/萩尾麻由/植田裕一/岸健太郎平岩紙/野呂彰夫/星野源/小路勇介/山本将人/ドロレス・ヘンダーソン康本雅子

楽しかった.ほんと楽しかった.その一言に尽きる.3時間という時間があっという間だった.長いどころか、もう終わっちゃうのって名残惜しかったくらい.不満があるとすれば松尾さんの芝居で毎回感じる切なさを今回感じなかったこと.実之介の正体がアレっていうのは正直つまらない.ただ、これでもかこれでもかと突きつけられた『業音』とかと違ってマイルドな味付けが続いたので、見てる最中はとにかくワクワクと気軽に楽しむことが出来た.ちょこちょこと歌舞伎ネタが挟まれているもののそれほどコアでもない.ヒュースケンとか桜田門外の変とか幕末の動乱期の雰囲気が芝居の妙なごちゃまぜエネルギーから感じられた.鷲鼻おかっぱで自転車乗り回す蝉之介ヒュースケンを見たらMIHOっちもトラウマから逃れられたろうに……

会場のどの位置から芝居を見るかというのも芝居の印象を大きく左右する.今回かなり前方の上手側で見たので全体を俯瞰するマクロ的な視点ではなく個々の役者の芸を楽しむことで精一杯だった.戯曲を読んだらきっと最後に切なくなったりするんだろうな.もう1回くらい遠くから見てみたかった.舞台の使い方とかわからなかったもの.大人数で舞台に立ってるシーンでの動線とか、立ち回りとかどう見えたんだろう.

勘九郎出演だからこその時代劇なんだろう.勘九郎、こういうの好きそう.やってる本人が楽しくてしょうがないんだろうなあ.でも勘九郎って「こんなことまでやっちゃう僕」っていうお坊ちゃまの得意げな様子が透けて見えるから苦手なんだ.他の小劇系の役者とはふとした瞬間の力の抜き方が違うんだろうか、演舞場で直美ちゃん相手の時とあんま変わんなかったなあ.もうちょいゆるーい雰囲気が欲しかった.

阿部サダヲをはじめ吹越満、秋山奈津子、片桐はいり、そしてもちろん宮藤官九郎松尾スズキといったいつものメンバーはさすがでした.みんな各々きっちり見せ場を作ってた.もう少し秋山さんの出番が多かったら言うことなし.田畑智子は初舞台ということで他の役者の濃さとは違う透明な雰囲気ながらもあの面々に妙に馴染んでたから不思議.

サダヲちゃんはもう別格ですねえ.舞台で光るってよく言うけど、ほんとにキラキラと輝きを放ってる役者だった.いやがおうでも視線を奪われる.南北と黙阿弥に扮し狂言回しのような役回りを担ってた松尾&宮藤コンビもおかしすぎ.悪戯好きで意地悪な妖精(!?)のように一時もじっとせず、なーんかこそこそやってるからついつい本筋外れてそっちに注目してしまった.小松さんは声が素晴らしく良い.今回どちらかというと真面目な役だったのでサモアリの時のようなキャラが見られなくて残念だった.次はメインどころとピンで絡む役でお願いしたい.

どういう話だったのって聞かれたら「さあ?」としか答えられないし、これまで見た松尾芝居は言葉の選択や響きを楽しむことが多かったけど、今回はアトラクションを見るみたいにパーツパーツのケレンを楽しんだって感じでした.WOWOWでの放送が待ち遠しい.

楽しい時間が終わった瞬間、明日のことを考えて憂鬱に…….本来ディズニーシーなんて浮かれるべきイベントなのに、なんで「気付いたら明後日になってないかなあ」って苦行のようになってるんだ.ああ、でもそれくらい気が重い.早起きをするというだけで、私にとっちゃ大変なダメージ.