欲望という名の電車

青山円形劇場
作:T.ウィリアムズ 演出:鈴木勝秀

ブランチ:篠井英介 スタンリー:古田新太 ステラ:久世星佳

ミッチ:田中哲司 ユーニス:花山佳子 スティーブ:石橋祐

パブロ:山崎康一 集金人:吉守京太

物売りの男:永島克 医師:鈴木慶一

何もない円形のステージに役者たちがテーブルや椅子、ベッドなどを運び込んで簡単なセットが出来上がった.


原作でチャプターの区切りに登場する花売りなどのシーンがフランス語を話す男性に変わっていた.いきなり最初からフランス語でまくしたてられて、これは『欲望』じゃなかったのかって面食らってしまった.フランス語の台詞のところどころが微妙に理解できるのがまたうざい.全然わからなければ放置できるのに、思わず聞き取りに真剣になってしまって、多分他の人にはホッと息をつける場面のはずなのに全然集中を切ることができなかった.しかも後でパンフ見てびっくり.あれってスタンリーとステラの子供だったの!? そんなの全然わかんなかった.そうとわかってれば彼の役割もまた違って見えたかもしれないのに.今度見に行く時はもう少しフランス語の聞き取りがんばってみるか(がんばってどうにかなるかどうかは別問題)


原作読む限り、同姓から見ても惨めとしか思えないブランチの捨てられない女としてのさがと、なぜそこまでと恐怖すら覚えるスタンリーの仕打ちを目の前で見るのなんて耐えられないって、これまでこの作品の舞台は避けてきた.


各所のレポート等を読むかぎり、古田さんをスタンリーに置いたことで随分これまでの欲望とは違ったものになっているらしい.他との比較は出来ないけど、確かに芝居で見るとあれほど暗く陰鬱な話だと思っていたこの作品が、それほどのものには見えなかった.


篠井さんがブランチを演じることで、良くも悪くもブランチから女性という属性が浮き上がって見えた.女性が演じるより客観的に見られていいんじゃないかしら.


久世さんのステラは思慮分別のある大人の女性という雰囲気だった.原作を読んだときの印象とは違ったけど、ブランチへの愛を感じる優しいステラだった.


古田さんは確かにイメージするスタンリーと随分違った.最初の軽い様子なんかは単なる下町の気の良い兄ちゃんで、ああいうトーンで来るとは思っていなかったからびっくりした.途中の迫力はさすがですが、最後のシルクパジャマ、他の色じゃどうしてダメだったんだろう.赤だなんて、プロレスラーの入場にしか見えません.まさかクライマックスで笑いを噛み締めることになるとは.


笑いといえば、戯曲ではなんてことない台詞が役者の演じ方によってあんなに笑いを誘うものになるんだねえ.


黒一色のブランチと白一色のステラの衣装のが最後逆転するところは効果的だった.ただ結婚式を象徴するかのようなラストの演出は蛇足だったかなあ.ちと冷めましたわ


<日記より>
欲望という名の電車』をMIHOっちと見るため青山円形劇場へ.うへー、昼間はこーんなに子供天国な場所なのか.ロビーにまで子供の声がこだまして、とてもこれから芝居を見るって雰囲気じゃないな.今までいつも夜だったから真実の姿を知らなかったのね.
昨日原作をもう一度読み直したし準備万端.いきなりフランス語を喋りまくる謎の男が登場してびっくり.原作のト書きに部屋の様子や音楽や照明まで細かく記述してあるので、すっかりそれを頭にイメージしてたら、がらんとした空間の洗練されたお芝居になっていた.
約3時間(うち休憩10分)という長丁場にぎょっとしたものの、始まってみればこれが本当にあっという間だった.3時間集中しっぱなしで疲労感がないなんて.『欲望…』って台詞はおもしろいけど、ブランチとステラ、ブランチとスタンリー、ブランチとミッチ、ブランチに関する人間関係ってどれも気持ちいい話じゃないじゃん.だからコクーンの大竹ブランチ&堤スタンリーも警戒して見に行かなかった.でもさ、戯曲って舞台にのったら化けるんだった.最初から最後まですごい楽しく、楽しくってのが語弊あるなら興味深く見ることが出来た.
篠井ブランチ、古田スタンリー、久世ステラ、3人が3人とも瞬時に空気を変える力を持ってるのが凄い.役者が素晴らしいだけに話の展開よりも「なるほど、こういうトーンで言うのか」って台詞の言い方をひたすら追ってしまった.文字で追っていたものが現実の言葉として発せられるおもしろさを存分に味わわせてもらいました.
↓に観劇記録