宝塚『薔薇の刻印』 

誘われて宝塚観劇にて月組(確か…)トップの紫吹淳さんの退団公演『薔薇の刻印』を見た.以前A席を誘われて時は金欠でお断りするしかなかったけどB席なら話は別.東京宝塚劇場は前の人の頭がまったく邪魔にならない設計で素晴らしい.


なんだかんだと5回目の宝塚で、ちょっとは宝塚的文法に慣れてきたかな.今回は永遠の命を持つヴァンパイアが主役でどことなく「ポーの一族」風味の芝居だった.時代を超えて同じ愛憎関係が繰り返されるという趣向が、いかにも大芝居的で宝塚の舞台にはとても合っていたと思う.問題は私が個々の区別がつかないことか.例えば歌舞伎なら、同じ白塗りしてても声や体型や役どころで顔がはっきり見えなくても誰が誰か区別することが出来る.が、宝塚だと歌舞伎を始めてみた人が全員同じ白塗り顔に見えちゃうのと同じで、遠めだと誰が誰やら全然わからず、かろうじて男役と女役の区別がつくくらい.宝塚もある意味型芝居だもんなあ.そんなもんだから随分たってからでもどれが女役トップなのか全然わからなかった.さすがに紫吹さんは声も覚えたし立ち位置やスポットライトのあたり具合、拍手の大きさから一発でわかった.


中世〜ルイ14世時代〜ナチス時代〜現代と4つの時代をまたがる愛の物語で、その時代時代の綺麗な衣装が次々登場するのを見るのが楽しい.突っ込みどころは数々あれど、いちいち気にするのは無粋なことでしょう.トップに花を持たせるためにはストーリー展開のつじつまを犠牲にしてすらありとあらゆる工夫をするあたりが非常に歌舞伎とかぶる.「かっこよい男」は山のように登場するのに本当の男が登場しない空間というのは不思議なものだ.いくら背が高かろうが華奢な体型の女性がかっちりしたスーツなんかを着ている様子は本物の男性というよりは少女マンガ的男性像に近くて、しかも台詞も大げさなほどキザだったりして、これは本当に徹頭徹尾少女魂を持つ女性の夢のためのお芝居なんだと実感した.


そんな少女魂などどこかに置き忘れてしまった私ですが、最後のレビューは毎回楽しみ.ラインダンスやあの信じられないほど大きな羽飾りはやっぱりワクワクするもの.今回は衣装も羽も真っ赤で統一されていて一段ステージが華やかに映った.紫吹さんはスタイル自慢のタカラジェンヌの中でも飛びぬけてスタイルがいいからタキシードがよく似合う.退団後はドレス姿なんかも見ることができるのかしらね.