柴田よしき『聖なる黒夜』

あらすじ(公式サイトより)
東日本連合会春日組大幹部の韮崎誠一が殺された。容疑をかけられたのは美しい男妾あがりのヤクザ…それが十年ぶりに麻生の前に現れた山内練の姿だった。あの気弱なインテリ青年はどこに消えたのか。事件を追う麻生龍太郎は、次第に過去に追い詰められ、暗い闇へと堕ちていく。

聖なる黒夜

聖なる黒夜

読み始めたら止まらなくて、結局夜中3時半過ぎまでかかって読みきった.


ヤクザの抗争とか刑務所内の生活といったどちらかというと苦手な内容が出てくるのにぜんぜん嫌な気持ちにならないのは、主となる登場人物達がみんな魅力的に映ったから.そして何より全編を通じて愛することと憎むことが表裏一体のテーマとして流れてたから.
途中までは韮崎殺しの犯人探しと、10年前山内と麻生の間に何があったのか、その2つの謎解きがメインな話だと思ってた.が、後半は大変なラブストーリーじゃないですか.十分に相手を憎む理由のある二人の男が、その憎しみですら消せない愛情を隠し持ってる状況のなんと切ないことか.ロマンティックな描写なんて全然ないのに、物凄い純愛を読んでる気になった.事件に関わる人間関係の複雑さのみならず、それぞれの人物の想いがすれ違っていくのもこれまた切ないの.
この二人の周りに配置されたまったく無関係と思われる人たちが、見えない連鎖の糸である一点に収斂していく様も見事だった.最後の犯人はさすがにそこまで繋げるかって思わなくもないが、ここまで関連性を持たせるならとことん突き詰めた方がいっそ爽快だ.
男性作家のわりに女性の描写が嫌味じゃないなあって思ったら、あらこの方女性でしたか.名前からてっきり男性だとばかり思ってた.
男同士の愛憎劇が権力、支配欲、プライドといったものが根底にあるのに対し、女性の場合は家族や子供といった愛する人を失うことに特化されていたのが印象的だった.
それにしても、山内も麻生も素敵だわ.麻生は二度と同じ間違いを犯さないためにも、おそらく自分の命に代えても山内を守るだろう.でも山内は自分が殺すか相手に殺されるかというぎりぎりのラインにいいるような不安定さがあって何とも掴み所がない.
あの後二人はどうなったんだろう.山内は盃をもらって春日組に入っちゃうの?麻生は山内を逮捕させるの?まあ少なくとも銃刀法違反で捕まっちゃうんだろうけどさ.
検索かけてみたら、どうやらこの二人って別シリーズのサブキャラらしいじゃん.しかもこの話の後の二人が登場するらしいじゃん.なんですとっっ!読む、絶対読む!