是枝裕和『誰も知らない』

誰も知らない [DVD]

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岐阜では今日が公開初日.朝一番で行ってきた.是枝監督のサイトで「ずっと子供たちと一緒に映画撮ってます」みたいなメッセージを読んだのはもう随分前のことだ.その時は詳しい内容をまったく知らず、『Distance』の後なだけに子供の映画ってどんなだろうっていまひとつピンとこなかった.実際に事件をモチーフにしたものだとわかり、いかにもこの監督らしいなって納得した.
『Distance』では役者の能力を信用した撮影手法を採っていて、それが見てる側にはとても刺激的でなんとも後をひく効果をあげていた.今回は役者が子供たちということで、同じく台本はないけれどもかなり演技指導をしたという話をスタパでされていた.ただ映画を見ていると、あくまで個々の子供が持つキャラクターを活かした演技をさせていて、決して監督が子供を映画側に引き寄せてるって感じではなかった.
是枝監督の映画は一人一人の登場人物を凄く愛情を持って撮ってるんだなあって、被写体が子供だということもあいまって今回特にそう感じた.子供たちの自然の表情を見ていると、時間をかけてじっくり撮影した様子が伺える.
結果だけを見れば悲惨な事件だけど、その過程には絶対に日常の生活があったはずで、特殊な環境の中での楽しいこと、嬉しいこと、悲しいことといった4人が過ごしている普通の何気ない毎日に胸が締め付けらた.そして、同じように繰り返しているはずの生活の中で、時間の経過と供に乱雑になっていく部屋、簡素になっていく食事、汚れていく服などがやけにリアルだった.そういう状況を急ぐことなくゆっくりじっくり描いているのも特徴的だった.この内容で2時間半という長い上演時間に最初は驚いたが、1つ1つのエピソードの中で不必要なほど子供の表情を長く撮ってたり、そういう時間のペースが後でガツンと効いてきた.
まさか泣ける映画だとは思ってなかったのに、何度も何度も泣きそうになって困った.特に長男のアキラ君.ほんと普通の男の子なんだよね.普通の男の子なのに一家の主のような責任をしょわされて、それを当たり前のようにこなしてる姿が痛々しい.できることを精一杯やって、それでもどうしても綻びは出来てしまって、そんないっぱいいっぱいの彼に届く母親からの「頼りにしてるからね」という悪気のない手紙がたまらなかった.まだ中学生なんだもん.そりゃたまには全部忘れて遊びたいことだってあるよ.
長女の京子ちゃんの大人びた表情も良かった.下の2人はまだ何にもわかってないからね.責任者であると同時に外とのつながりをまだ保ってるお兄ちゃんに比べ、状況がわかるだけに内に内にとこもっていく京子ちゃん.日がな一日押入れの中に入ってるってのはどんな気持ちだろう.
子供たちが自分の境遇をことさら恨んだり悲観したりせず、普通に受け入れていることがせつない.