天保十二年のシェイクスピア@シアターコクーン

作:いのうえひさし 演出:蜷川幸雄
佐渡の三世次…唐沢寿明
きじるしの王次…藤原竜也
お光/おさち…篠原涼子
お里…夏木マリ
お文…高橋恵子
尾瀬の幕兵衛…勝村政信
隊長…木場勝己
鰤の十兵衛/笹川の繁蔵…吉田鋼太郎
小見川の花平/飯岡の助五郎…壤晴彦
佐吉…高橋洋
お冬/浮舟太夫毬谷友子
大前田の栄五郎…沢竜二
よだれ牛の紋太/蝮の九郎治…西岡徳馬
清滝の老婆/飯炊きのおこま婆…白石加代子

生では見れらなかったもののいのうえひでのり版のDVDを繰り返し繰り返し見てしまっていたので、どうしても比較せずにはいられなかった.結果、どっちが好きかと聞かれたらいのうえ版と答えると思う.
それぞれ別に見てたらどちらも好きな演出家だけれども、いざ同じ演目をやられると派手好き下世話好き小ネタ好きな自分を再確認しました.
猥雑で雑多な雰囲気やお祭り気分の華やかさや迫力といったものがいのうえ版のほうがより感じられた.
2回チケット取ったけれど1回でいいかもって思ってしまった.最終的に印象に残ったのはOPとEDの歌と、藤原君のはじけるような可愛らしさと、吉田鋼太郎氏の上手さでした.
一緒に見てた妹も「見ちゃってるってのは良し悪しあるねえ」って同じような感想を持ったらしい.知らなかったらもっともっと楽しめたと思う.これがシェイクスピア定番戯曲だったらむしろ知ってるが故に楽しめるんだけれども、こういう特殊な戯曲だと悪い方に影響しちゃったな.
なので感想もどうしても2つの比較という視点になってしまった.

戯曲

いのうえひさしの戯曲は読んだことがない.いのうえひでのり版はもともとが胡散臭いメンバーなのでてっきりお遊びかと思っていた台詞が今回も登場して、実は原作に書かれていたんだってことに驚いた.細かいネタや言葉遊びが組み込まれたすごい戯曲だなあ.是非原作を読んでみたい.

音楽

実は一番ダメだったのがこれ.宇崎竜童の音楽はどうにもこうにも性に合わない.シンセサイザー(敢えてこう呼ぶ)の安っぽい音質と使い方が気になって気になって.わざと古臭い昭和な感じを出すという狙いだったのかもしれないけれど、それが気持ちよく耳に響いてこない.あと生演奏かそうでないかというのも大きい.ミュージカルやオペラの演奏が録音だった時のような味気なさを感じてしまった.
全体的に演歌調なんだよねえ.好みの音楽ではなかったので歌の部分の楽しさが半減してしまった.
今回歌詞を電光掲示板で表示してくれてたのはありがたかった.耳から聞いても租借できないような、普段使わない言葉が多く登場したので、掲示板がなかったら半分くらいしか意味がわからなかったと思う.ただし、歌詞にばかり気をとられて舞台を見忘れることも多々あり.もったいない!

演出一般

グローブ座を再現して、その中で演じられているようにするという試みはわかる.が、ひたすら畳が移動するってのはどうだろう.場面場面の枠をきっちり規定する目的だったのかな.ほとんど全ての転換がこの畳車の移動で構成されていたのでだんだん鼻に付いてきてしまった.
衣装にしてもセットにしても庶民が普通に着てそうな着物や普通の畳に普通の障子とデフォルメがほとんどされていなかった.後ろのグローブ座の洋風建築の対比としてこういうオーソドックスな仕様にしたのかしら.最後の鏡とか蜷川さんのことだから全面鏡張りくらいにするかと思ったら意外にあっさりさっぱりしていて肩透かし.ミヨジが殺される場面もリアル感を追求したのかやけにあっさりしてた.
いつものシェイクスピア演出と違い、全体的に舞台ならではの大げさな味付けが抑えられていてリアリティーを感じさせる演出だった.その点でいのうえ演出とは真逆な印象を受けた.
シェイクスピア全戯曲を埋め込むというコンセプトといい下ネタ炸裂なパワーといい、この戯曲そのものがお祭りのような非日常的なパワーを持っているものなので、そういう意味で大音量&ケレンたっぷり濃密な演出だったいのうえ版のほうがあっていたような気がする.あ、でもいのうえひさしの狙い的にはどっちなんだろう.蜷川版のほうなのかな.余計なお遊びがなく凄く真面目だったもん.
ストーリーがよくわかるのは断然蜷川版.あまり凝ったことをしてないせいか、登場人物の相互関係が非常にわかりやすかった.
照明は新感線でもお馴染みの原田保氏.そのせいか今までの蜷川演出では記憶にない、そして新感線ではお馴染みの照明使いがあった.

役者陣

皆さん当たり前だけれども確実で堅実.それがどういう人物なのかを物語の中できっちり意味づけてくれていて、それがより一層ストーリーの理解を助けてくれた.ただその安定感が物足りなかった部分もあり.豪華なメンバーが揃いすぎなせいか一人一人の出番が少なくて、一人一人の印象が薄くなってしまったのはしょうがないか.白石さんですら薄かったもん.


吉田さんの鰤の十兵衛が素晴らしかった.台詞の説得力がはんぱじゃなく、彼の心の動きが手に取るようにわかった.


あとは藤原君.一人だけ若いというのもあってやけにはじけてましたねー.最初登場した時はいつもの暑苦しい台詞回しに「彼には軽い芝居は無理なのかしら」と思ってしまったけれど、出番が進むにつれてどんどん良くなっていった.阿呆を装うのにまさか女形の振りをするとは思わなくて登場した途端おかしくて笑ってしまった.パンフによるとあの女形の仕草は菊ちゃんに習ったんだってね.顔立ちが女性っぽいから遠目からだと普通に女の子といってもいいくらい.可愛かった〜.
徐々に時代をさかのぼっていく日本語訳での「To be, or no to be」の連続も凄かった.ハムレットセルフパロディーっぽくて藤原君がやる意味が凄く出ていた場面だった.似非バルコニーシーンで、スルスルッと上がっていったのも笑えた.お光と2人のシーンは可愛かったな〜.
それから殺陣が素晴らしかったじゃないですか.あの動きの速さは若さだねえ.


姉妹夫婦は嫁のインパクトが強すぎて旦那はいてもいなくてもって感じだった.
勝村さんの幕兵衛は真面目な剣豪といった雰囲気を最初から最後まで貫いていた.ミヨジの策略にひっかかるシーンもひたすらシリアス.役者と台詞の言い方が変わるだけで同じ場面がこんなにも違ったものになるんだね.
幕兵衛がお里を殺すシーンはこれまたあれ?ってくらいあっさりしてた.夏木さん使ってるんだからもっとエロス爆発させるかと思ったのに〜.
篠原涼子ちゃんはドスが効くのがいい.おさちは沢口靖子のほうがはまってたけどお光は涼子ちゃんのほうが良かったと思う.
毬谷さんの出番が少なかったー!寂しい!
高橋洋さん、相変わらず上手い.太夫の死に絶望する場面で思わずジワッときたのに穴に落っこちるとは.


最後は通路側だったので真横と唐沢さんや篠原涼子ちゃん、藤原君がかけぬけていった.
涼子ちゃんと目があったー!(バカ)
でも通路奥から身を乗り出して唐沢さんに触ろうとする人が続出するのには驚いた.あれってまだカーテンコールじゃないよね?芝居中だよね?