児雷也豪傑譚話 新橋演舞場

原作 河竹 黙阿弥
脚本 今井 豊茂
演出 尾上 菊五郎

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高砂勇美之助/八鎌鹿六女房お虎 尾上菊五郎


児雷也 尾上菊之助
大蛇丸 尾上松緑
綱手 市川亀治郎


相馬夜叉五郎 坂東亀三郎
月影太郎照行/鹿六娘お辰 尾上松也
恩田鬼平太 坂東亀寿
片桐大膳 片岡亀蔵
あやめ 中村芝雀
熊手屋女房お松 市村萬次郎
乳母袖垣 坂東秀調
月影郡領照友 河原崎権十郎
仙素道人 尾上松助
八鎌鹿六 市川団蔵
熊手屋慾四郎 坂東彦三郎

御園座以来の児雷也です.
楽しかった〜.筋書きでの菊五郎さんインタビューにもあるように、御園座での経験を元にいろいろ演出に工夫がされていて更にバージョンアップした児雷也だった.
十二夜』の蜷川演出にインスパイア(最近流行りなので使ってみた)された部分もあるのかな.歌舞伎の演出、とりわけ菊五郎劇団の演出という点では菊五郎さんのほうがいいかなと思ってもみたり.なんといっても劇団ならではの凝った立回りが楽しめます.


1幕目はなんといっても蝦蟇、蛞蝓、大蛇の妖怪3匹大立ち回りでしょう.大の苦手のカエルですが頑張って見た.どこの雑誌のインタビューだったかなあ、中に入って動かしてる方が普段無い立ち回りなだけに3人で工夫を凝らしたと語っているのを読んだ.実際の立ち回りからも苦労の跡が見て取れました.蛇に睨まれたカエルや、蛞蝓に怯える蛇など、動きでちゃんと表現されていた.
カエルの後ろ足の表現には隣の妹が大爆笑.まじで声を上げて笑ってた.昔懐かしい空気で飛ぶカエルのおもちゃみたいな動きをあの大きさでやるのは大変!
大変といえば蛇.蛇腹がうねうね動いてたけどあれはどうやってたんだろう.尻尾(?)の先まで動いてた.
蛞蝓は記憶違いでなければ御園座よりバージョンアップしてたような.あんなヌメヌメした感触まで再現してたかなあ?
更に巨大化したカエルが登場して、すわカエルの宙乗りか?と思ったところにカエルが2つに割れて中から鷹に乗った菊ちゃん登場.鳥の質感が出た鷹がかっこいいやら可愛いやら.
ステージにはするするっとスクリーンが登場し、3階に向かう菊ちゃんを正面から捉えた映像が映し出された.これも前回の経験を踏まえた改善らしい.せっかくの宙乗りが1階席からだと見づらいという不満が多く出たそうだ.考えたことも無かった.おかげさまで下から見上げる菊ちゃんと、大画面で見得を切る菊ちゃんを顔を左右に動かしつつ堪能しました.


2幕目は菊五郎&松也の女装(敢えてこう呼びますよ)が最高!
御園座の時は名古屋弁だったけれど今回はお江戸なので方言はなし.名古屋嬢に扮していた松也君は今回はバンギャルで登場です.相変わらずめちゃくちゃ可愛い.頭には白いウサギの耳、逆立てたメッシュ入りの髪、がばっと開いた胸元(女性だったら完璧見えてます)にはハートに矢が刺さったタトゥー、口紅はもちろん黒ライン入りでメークもばっちり.上目遣いに前髪いじってるのが可愛いったらない.
1メートルはあるかと思われる羽の扇をはためかせた姿が菊五郎さんは貫禄です.美輪さんか菊五郎さんかとばかりの着飾りようで、頭の先からつま先まできらめいていた.
養子のため妻に頭があがらない代官役の團蔵さんは紫のライトを浴びながら「ヒロシです」ってやってるし、菊五郎さんは「○○ですから〜、残念!!」って言ってるし、えーっと、松也君はどのお笑いネタを披露してたんだっけ?「フォー!」だったかな?今回も菊五郎&松也母娘はヨガを披露してました.おかげで隣の團蔵菊之助の間で進んでいる本筋にちっとも集中できません.
菊五郎さんって人間国宝なんだよなあ〜.


3幕目はがらっと変わり丸本物の香り漂う幕開けです.
『合邦』を取り入れた筋立て(というよりそのまんま)ということで、まるっきり同じ台詞もあったりして知ってる人には二度おいしい.
久しぶりに聞く芝雀さんは雀右衛門さんと声が、というか語り方が似てた.


そして最後の地獄谷は炎の一大スペクタル!
コンテンポラリーダンスのような衣装をまとった火の粉四天が銀の棒や晒を使って上へ下へと大騒ぎです.その後ろでは大太鼓や小太鼓が迫力のリズムを刻んでいて、集団ならではの醍醐味を味わいました.
最後はライトセーバーとでも呼びたくなるような青く光る剣が登場しての大団円.バックは星の輝く夜空に巨大な月という壮大な宇宙空間が表され、なんだか吸い込まれそうでした.


菊ちゃんは可もなく不可もなく.他のキャラや着ぐるみのインパクトが凄すぎて鷹の宙乗りをしてもまだ弱かったか.芝居が良くも悪くも生真面目だからねえ.いつか菊五郎パパのようなはっちゃけた姿が似合うようになるんでしょうか(似合う必要があるかどうかは別)
松緑の悪役っぷりが良かった.ちょっとずつ貫禄がついてきたような気がする.


今回は音楽も注目の一つ.一幕目の終わりのサンバが始まるかのようなリズムと音、途中に入ったコーラス、ボレロやヴィヴァルディといった有名クラシック曲のアレンジ、そして最後の和太鼓と、ジャンルにとらわれない音楽の使い方が面白い.ただ面白いだけでなく芝居効果の面でも有効的だった.
新感線かと見まごうほどのスモーク使い.菊五郎産ご本人も「もっとコミック風に」とおっしゃってるのであながち間違った印象でもあるまい.これも御園座での経験を活かし、今回は特効リハ日を1日設けたんだとか.スモークと照明のタイミングが難しいらしい.っていうか御園座はリハ無しか!相変わらず歌舞伎の世界の人たちは凄いな〜.