高尾慶子『ロンドンの負けない日々』

ロンドンの負けない日々 (文春文庫)

ロンドンの負けない日々 (文春文庫)

60過ぎて英国で悠々自適の年金生活を送る著者は相変わらずパラフルでストレートで強烈!
イギリスの悪いところは悪いとズバッと言い切るけれど、でもイギリスが大好きって気持ちも同時に伝わってくる.
前半は入れ歯の顛末や交通のあれこれなど、日本とイギリスの社会生活の比較をいつものように軽妙な言葉で語ってくれるので、こんな元気な60歳になりたいなどと思いながら楽しく読んだ.
とにかく物凄いエネルギーに溢れてる.こうと思ったら思うだけでなくすぐさま実行に移す積極性と、どんな人に対しても筋の通らないことはきっちり言う強さに圧倒される.
後半は戦争について.いろいろ考えさせられたけれどそれを言葉にするのは難しい.
天皇皇后のイギリス訪問の際、日の丸を焼いて抗議をした元捕虜のジャック・カプラン氏との交流がメインです.これを見た高尾さんは、どうしても話がしたいと彼に手紙を書き、そして今まで頑なに日本訪問を拒んできたジャック氏を日本に連れて行くのである.日本の軍隊が捕虜となった英国人に対してどんな残酷な扱いをしたのか、特別に興味のある人で無い限り多くの日本人は知らないと思う.そして元捕虜のジャック氏にしても、杉浦氏のようにユダヤ人を救おうとした日本人がいたことを知らないでいる.
平和への第一歩は相互理解だということが如実に伺えるエピソードだった.「許す」ことや「好きになる」ことはできなくとも、ただ「互いを知る」というだけでも大きな前進であり、傷ついた心を癒すことが出来るものなんだ.
そしてこの「知る」ということはもちろん他国、他人を知るということだけでなく、日本人として自分の国のことを知ることも含む.私は戦争のこととなると、特に近代兵器が出現してからの戦争となると「知る」前に拒絶する気持ちが働いてしまう.子供の頃に原爆の話や空爆の話を毎夏聞かされた反動かもしれない.子供の頃の印象は強烈だからね.「はだしのゲン」とか「ふたりのイーダ」とかトラウマだもん.
でも高尾さんの行動や思想を読んでいると、もちろん全部が賛成とは言えないものの目をそらさずにとにかく「現実から目をそらさず事実を知る」というのは大切なんだと思いしらされた.
高尾さんは、一般の日本人から見るとかなり攻撃的な一面もうかがえる.絶対に妥協せず知事や外務省といった顔の見えないお偉方から知人まで、おかしいと思ったことはストレートに「それはおかしい」と指摘する.こういう生き方をするのは友人も多く出来るとともに敵も多いと思う.でも白人社会の中でお手伝いをしたりウェイトレスをしたり自分の力で30年以上暮らしてきた女性の言葉には素直にねじ伏せられます.