『信長』@新橋演舞場

信長:市川海老蔵
濃姫純名りさ
お市小田茜
明智光秀田辺誠一
木下藤吉郎甲本雅裕

予想より面白かった.
感想は後ほど.


【感想追記】
あんな海老蔵、こんな海老蔵と、とにかくいろーんな海老蔵が見られる海老蔵ファンにはたまらん演目でした.
武蔵を髣髴とさせるボサ頭に普段着だというのにカラフルなポイントの入った着物をはおったうつけ者、青い衣装のきりっとりりしいお殿様、ポスターでも使われたマントにブーツのバテレン衣装にロンゲストレートのカツラ姿、本能寺での白装束と、女性陣より衣装変えの激しいサービスっぷりが嬉しい.
特に洋装は素敵でしたよ〜.歌舞伎や時代劇だとあんな格好してるの見る機会がないもの.あと髭をつけた白装束が思いのほか渋くてうっとり.
女優とのラブシーンも思ったよりはまってた.もっと照れると思ったのに(見てるこっちがね)、あら?ってくらい自然にこなしてた.


ってことでまずは見た目の印象ばかりだけど、綺麗だったからしょうがない.ほーんと、この人は綺麗な顔してるわねえ.
(余談だけど、先日来あちこちで見かけた助六横顔ポスターを見て、あらためて海老蔵の美しさを再認識した次第です.全然違うんだもん!海老蔵助六の鼻筋の通り具合、目の切れ具合、どれをとってもポスターの助六とは大違い.)


信長という超有名人の一代を描いた作品です.
清洲、稲葉城(岐阜城)、小谷城安土城と出てくる土地がどこもかしこも身近な場所で土地勘はばっちり.
だてに子供の頃から道三麺のCMを見、毎年道三祭りの行われる土地で育ったわけではありません.
がっ、なにせ信長の嫁が道三の娘だったことをつい去年知ったばかり.土地勘以外はほとんど何の知識も無い私のようなものには、ピンポイントで彼の人生の転機を描写してくれる構成がありがたかったです.


会いたい歴史上の人物で常にトップクラスに位置する人だけに、きっと今までもいろんな信長像が提示されてきたに違いない.が、私は幸か不幸かそういったものをまったく読んだことも見たこともない.なんとなく「鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス」の歌のイメージから、短期で冷酷な天才というイメージを持っていた.


この芝居の中の信長に一番感じたのは「圧倒的な孤独」だった.そしてそれは自ら望んでの孤独にも思えた.
周りには信長を慕い、信長に手を差し伸べる人があれほどいたというのに、彼はそれを見ようとしなかった.自らの野望と向き合いそれを実現させることが全てだった.なまじその才能があったことが彼の不幸だったのか.
神に選ばれたはずが実は弄ばれた天才という信長だった.
この人が本能寺で生き延びたらどんな世界が開けたんだろうって思わずにはいられない人物だった.


海老蔵は最初のうつけ者の頃は、うーん、あんまり今までと変わらないかな?って印象だったけど、孤独感が増すにつれどんどん良くなっていった.相変わらず張る台詞は歌舞伎調になって言葉が曖昧になるのが気になるものの、2幕の狂気をはらんだ威圧感や合理的な冷徹さはきっちり伝わっていた.最後の白装束の信長には、今までの海老蔵からは感じたことのない老成した落ち着きがあった.
立ち回りはゆったりまったり歌舞伎風.最後くらいは時代劇風殺陣のほうが迫力が出てよかったんじゃないかな〜.


信長に仕える部下として光秀と秀吉がメインで登場.光秀はもと斉藤道三の家来だったのか!知らなかった.
光秀というと裏切り者というイメージが強いけれど、この芝居の光秀は、信長のために生き信長のために裏切る忠臣として描かれていた.
一方秀吉はというと、一見人が良さそうで実はプライドが高く自信に溢れているのが垣間見られた.
この中で生き抜いていけるのは、頭で考える前に身体が動き、繊細という言葉から一番ほど遠い秀吉だろうなーって自然に思えましたね.



お濃は道三の血を受け継ぐ娘らしく、気性が激しく意志の強い女性だった.そして何よりも心から信長を愛していた.光秀はそのお濃から「信長様を助けて」と言われ謀反を決心する.最後まで光秀がお濃を信長を尊敬する同士としてみていたのか、それとも恋心を持っていたのかはわからなかった.でもこの二人は信長に会った日から、同じように信長に惹かれていた.
お濃−光秀ラインとは別にお市−秀吉ラインがあり、徐々に信念が揺らぎ不安と疑いに苛まれていく前二人と、まったく揺らぐことなく自分の道を邁進する後ろの二人という対比があった.
ちょうど長浜で「お市浅井長政には確かに愛情があった」という展示物を見てきた後なだけに、小谷城から助け出してくれた秀吉に対し、開口一番「何故もっと早く助けにこぬのじゃ!危うく殺されるところだった!」とわめくお市の方が衝撃的.この芝居のお市はひたすら兄命の妹だった.


信長を中心に男女4人の人物が交錯する芝居の中で、信長の次に印象に残ったのはお濃を演じた純名りさだった.最後、愛する信長と一緒に死ぬために本能寺までやってくる姿に泣けました.
秀吉の甲野さんは笑いと冷静さのバランスが上手い.おどけた者を装いつつ一筋縄ではいかない人物だってことが上手く表現されてた.
田辺さんはあの通る声のメンバーの中に入ると高めの優しい声がネックだった.スポットを浴びて決意表明をする場面も、声にもう少し説得力があればもっとかっこよいんだろうに惜しいな〜.
個人的に田辺さんはウーマンリブ近松心中物語の時のような情けない二枚目役が好き.