中公文庫『江戸時代の歌舞伎役者』(田口章子著)

江戸時代の歌舞伎役者 (中公文庫)

江戸時代の歌舞伎役者 (中公文庫)

真面目な語り口ではあるが、役者の人となり紹介&役者世界のゴシップ紹介的な内容でおもしろく読む.誰々の女性関係ってこんなだったんだよ、誰と誰はこんなに仲が悪くてこんな悪口言ってたんだよ、誰々は芸熱心でこんなに芝居に貢献したんだよ、って興味深い話がてんこもり.

何はともあれ有象無象の役者の中で記録に残っている役者というのは良くも悪くも非常に個性的.いまや古典となってる演目でも初演ってあったんだよなあ.今の歌舞伎では型の継承はあってもまったく新しい挑戦というのを見るのは難しい.弁慶の衣装を役者の工夫で変えちゃったって今じゃありえないじゃん.こういった逸話を読めば読むほど、その当時の歌舞伎や役者の世界ってのを覗いて見たくなる.

特に吉沢あやめや瀬川菊之丞芸談を読むと女形に興味がわく.残された彼らの言葉を読む限り、女形に取り組む姿勢がはんぱじゃない.普段から女として生活すべしというポリシーの吉沢あやめと、女性というものを客観的に観察し型として演じた瀬川菊之丞では明らかに違う女性の姿が舞台にあったはず.ああ、見てみたいよ〜

立役ではやはり歴代團十郎の印象が強い.若くして死に、死絵が100種類以上出たという八代目ってどれほどのハンサムだったんだろう.浮世絵見ても細面でいかにも白塗りが似合いそうなすっきりした顔ってのはわかるけど、言い換えれば一般的な二枚目顔としかわからない.十一代目や今の新ちゃんみたいな感じだったのかなあ.反対に七代目どの絵を見ても同じ特徴がはっきりわかって、ああこういう顔してたんだなあってよーくわかる.たいてい浮世絵の役者絵なんてどれも似たような顔にしか見えないのにね.