東宝ミュージカル『Les Miserables』@帝国劇場

ジャン・バルジャン別所哲也
ジャベール:岡幸二郎
エポニーヌ:新妻聖子
ファンテーヌ:高橋由美子
コゼット:剣持たまき
マリウス:山本耕史
テナルディエ:三遊亭亜郎
テナルディエの妻:森公美子
アンジョルラス:坂元健児

レミゼのソワレを観劇.おおっ、帝劇前には「チケット譲ってください」と書いた紙を掲げた人がいっぱいだ.なんでもソワレの当日券には300人以上が並んだらしい.事前にチケット取っておいてほんと良かった.思い入れたっぷりだったため、ありえないってくらい長文になってしまった.


さて今日は残念ながら別所さんと岡さんの楽日なのだ.そして今回お初の山本君も今日で最後.ああ、ほんとに残念でしょうがない.


別所バルジャンと岡ジャベールはこれまでバルジャンとジャベールにちっとも意識が行かなかった私を、始めてこの2人中心にレミゼを見せてくれたという点で忘れられない役者になりそう.今までは学生達やエポニーヌやファンテーヌを目当てに見てたようなものだったもの.


そんな2人がこれで東京最後だなんて名残惜しいわ〜



さて、本編です.今日は今期初めての2階席、ちょっと遠いけど舞台全部が難なく見渡せるのはいいね.


とはいえ、今日は見納めってことで全体像はさっくり捨てました.岡さん一点集中状態、『One Day More』ですら横の行進捨ててサッシュベルトを巻きひざまずく岡さん凝視.うわあ、かっこいい.


『Stars』も素晴らしくて拍手がなりやまずガブローシュの歌が前半まったく聞こえなかった.ひざまずいて祈る姿がなんともさまになってて普通なら目がハートになるところなんだけど、ジャベールの威厳とか意思とかが伝わってきて近寄りがたいの.


『自殺』のシーンも圧巻.岡さんのジャベールは、なぜ自殺をしなくてはいけないのか、何を思って自殺するのかが歌から表情からちゃんとわかる.ほとんどまばたきしてないんじゃないかというすごい形相で前を睨んでるけど絶対に狂ってないの.正気のまま絶望して死んでいくジャベールがいて、今まで漫然と見ていたこのシーンで胸が痛いほど締め付けられてしまう.この場面で泣きそうになるなんて今まで考えられなかった.


ファンの欲目かもしれないけど、というか完璧欲目だけどさ、岡さんが舞台に出てくるとパッと雰囲気が変わる.舞台栄えするというか華があるというか、やっぱ目がいっちゃうもん.幕間でも隣の女性が「ジャベールにしてはキレイすぎ」と言ってたけど、ほんと立ち姿とか所作がきれいなんだ.おかげで言われるまで10年後のカツラが白髪交じりだって気付かなかったよ.あまりに美しいから普通の銀髪だと思ってた.


ジョン・ケアードが岡さんのジャベールに対し「優雅な動き」「黒豹のようなジャベール」と評してたらしいけど、まさにその通り.今までとても「優雅」とか「黒豹」というイメージのなかったジャベールという役をしっかりその形容詞のまま客に納得させちゃってるのが凄い.出演者の中で一番高貴なイメージを漂わせてて、そんなジャベールってどうなのさって普通思うのに何故か説得されちゃうもの.


そんなわけで岡さんのジャベールに圧倒されてる中のアンジョですが…すまん、やっぱり岡さんのアンジョが見たい〜.バリケードのシーンで岡さんのアンジョが浮かんできて涙出てきちゃった.今回坂元さんで歌に関しては申し分ないんだけど、どう見てもアンジョに見えないのが辛かった.面倒見の良い学級委員って雰囲気なの.うーん、正直最初吉野さん見たときはあちゃーって思ったけど、こうなると吉野さんのほうがアンジョっぽくて好きかも.で、2人のアンジョを見て良くなってきてるのはとてもわかるんだけど、根本的にどちらもアンジョに見えないのが個人的にとっても悲しくて変なところで泣けてきた.まあね、今日はすっかり岡さんモード入ってたからファンのたわごとだと思って許してね.今にして思えば歌と容姿が揃い、かつ原作のイメージのままのアンジョがいたってのが凄いことなのかしら.


ただね、岡さんの場合こういう凄いことになるのがレミゼだけっつーのがなんとも不思議.アンジョに惚れてそれ以外のステージも何度か見たけどレミゼほど鬼気迫るというか迫力ある岡さんにはお目にかかれないんだよなあ.だからこそレミゼの舞台でできるだけ長い間見ていたいのにもう卒業だよ…ちぇっ.


さて、お初の山本マリウスです.へー、岡田マリウスとは全然違うんだね.見た目も柔らかで顔だけ見ればあんたが少女だよ.噂のバリケード落ちも凄かった.あともう少しでオケピに落ちるって.『Empty Chairs and Empty Tables』では童顔のせいか本当に子供が泣いてるみたいで、あれじゃ誰でも愛しくなるってもんだ.卑怯だよ.「友よ〜きくな〜僕は生きている〜♪」のところはまさに号泣モード.ここまで泣くじゃくって歌うマリウスは始めてみた.今までのマリウスは大抵ここで歌い上げてたんだよね.こういう表現もあるのかあって新鮮だった.なにせ可愛いし(←結局それか).ただ声質がこもってるというかかすれてるから、歌そのものを聴くなら岡田マリウスのほうがいいかな.


今期のレミゼはジャベールの自殺でぎゅっときて、その後のマリウスで更にそれが加速され、最後の三重唱とそれに続く『The People's Song』で我慢の限界ってパターン.今まで泣きポイントといえばエポやファンテーヌで、この流れで泣くことはなかったのになあ.やっぱり見る観点が変わったってのと岡さんの自殺の歌が引き金になってるのかなあ.


アンサンブルは阿部グランテールのほうが好み.伊藤グランテールは演技はいいんだけど歌声がねえ、阿部さんのほうが声がいいんだもの.というわけでアンサンブルは前回のチームの方が好き.ただガクンと落ちる人がいないからコーラスは今回のチームの方がいいかも.ただ今日はテナの一味がバルジャンの家を襲撃しようとするところで1人歌詞をすっ飛ばしちゃった人がいて、ものすごく間が空いてしまってた.こんなの初めて聴いたよ.


さて、今日は3人が楽日ということで特別カーテンコールがあった.司会は森クミさん.

本当に悲しんですよ.レミゼの中で一番のイケメンがいなくなっちゃうんです」

という言葉で紹介された3人.うむ、確かにこの3人揃えば納得しちゃう.そしてカーテンコールの明るい照明の元で見た岡さんがまたキレイでさあ.長身にロングコートが映える映える.レミゼってずーっと照明暗いから渋く見えてたんだけど、明るいもとで見たらやっぱいつもの岡さんだった.お隣さんも「エレガントねえ」「顔が小さくてモデルみたいねえ」とひたすら岡さんの容姿を誉めてたので密かにいい気分を味わう.そして1幕後は「キレイすぎ.押しが足りない」と辛口批評だったジャベールへの評価も2幕後はすっかりプラス評価に変わってた.前の女性も「やっぱり声がいいね.歌を聴くなら岡幸二郎ねえ.好きじゃないんだけど」と最後に落としてくれましたが好評価だった模様.


3人それぞれ挨拶があって、まずは別所さん.学生の頃にはじめて見てそれから大好きなミュージカルだったそうだ.これに出られて嬉しいってほんと素直な感想でした.見てる側からもこのミュージカルをとても大切にしてるのがわかって素敵なバルジャンだった.挨拶の途中で感極まって声が詰まってしまった別所さん、慌てて隣の森クミさんに振ったものの、当の森クミさんがボロボロに泣いてるんだもん.「10年前から仲が良くて、一緒に仕事ができて良かった〜」と号泣しながら別所さんにすがり付いてた.


そんな森さん、岡さんの紹介時に「岡君とはマリウス時代から…」とマジボケ.それを受けて岡さんもいきなり「マリウス役の岡です」と初めて客席の笑いを取ってた.


「再演が決まった時にはまさか出られるとは思ってなかったから、プロデューサーに初日のチケットをお願いして着ていく服まで決めてたのに」客席からの笑いに対して「ほんとですよ」と岡さん.なんとまあ落ち着いてること.「2幕前に袖で山本君が今のガブローシュの男の子に死に方を伝授してた」と裏話も披露.その後もちゃっかり博多座の宣伝までしてあげく「東宝の代表になりかわりお願い申し上げます」とこれまた笑いを取る余裕あり.何者なんだあんた.まったく隙のない流れるような挨拶でした.わかっちゃいたけど弁の立つ人だ.


一番とっちらかってたのが山本君.何回「16年前」って言ったんだ.はらはらするくらい途切れ途切れの挨拶だったけどこれがまた可愛いんだなあ.「16年前楽屋で五郎さんの弾くギターをかっこいいなあって見てた自分が今マリウスをやってて、同じように楽屋にギターを持ち込んでそれをガブローシュの男の子がかっこいいなあって見てて(ほんとか?)、そいういう………輪廻転生?」


なんだよ輪廻転生って!客席からの笑いに対し、森さんも思わず「野口さん生きてますっ!」と突っ込みいれてた.


本当に仲が良さそうな森クミさんの司会と共になんとも暖かいカーテンコールで拍手がなりやまない.何度も何度も出てきてくれた.山本君がバク転しながら登場したと思ったら、反対の袖からは坂元くんがバク転+1回転ひねりまでいれて登場し、そりゃいやがおうにも盛り上がるってもんでしょ.続いて登場した別所さんが岡さん達に「次はあんた」とばかりに前に押し出されて、やる振りだけは見せてた.


そんな岡さんはというと、出てくるたびに1枚脱いで薄着になってて素敵〜.最後はふわっとした白いブラウス姿で目の保養でした.コゼットの垂れ幕の端から顔だけ覗かせてるお茶目な姿も目撃.ジャベールやってた時とはまるで別人だわ.


ううーん、やばい、このままだと博多座行ってしまいそう.南座あきらめれば行けるかな.





別所さん、岡さん、山本君の楽日ということで一つの区切りの公演です.そして私の中でも一区切り.


結局バルジャンは山口さんと別所さん、ジャベールは岡さんしか見なかった.全キャスト制覇したい気持ちもなかったわけではないけど、8月でお別れキャストが好きなだけに9月のチケットには手が出ない.上書きされちゃうのがこわいんだもん.


というわけで、一区切りの感想:


いろいろ言われる今回の若返りレミゼだが、私は結構気に入ってる.プリンシパルは明らかに歌えるメンバーが多いもん.アンサンブルは今回ぐっと年齢が若返ってる.最初の印象はただひたすら「声、若っ!」.おかげでベガーズのシーンとかは軽ーい感じに聞こえてしまいなんだかなーだったけど回数重ねたら慣れちゃった.あとは歌のレベルがプリンシパル並みにあってほしいかな.10周年DVDあたりを見慣れてしまうと物足りないのよね.


◆キャストの感想◆

バルジャン

  • 山口祐一朗
    • 1度しか見られなかったけど、やはり歌の素晴らしさが格別.たまに手が泳いでたりして笑っちゃうのもご愛敬.できればもう一度見たいな.
  • 別所哲也
    • 良いです.あまり期待していなかっただけに嬉しい誤算でした.歌も意外といい.優しいバルジャン.

コゼット

2人とも良かった.こんなに不安のないコゼットって私が見始めてからは初めてじゃないかしら.というより早見優、安達裕美の印象が強烈だったから東宝コゼットは歌えないお飾り的なものだと勝手に決め付けてた.河野さんはホワホワと可愛らしいコゼット、剣持さんは美人でいかにもお嬢様風コゼットと2人ともそれぞれ魅力的で、今回コゼットに存在感があった.歌も問題なし.

マリウス

岡田、山本両氏共に華があっていい.前回津田さんしか見ていないためマリウスの印象が非常に薄くアンジョルラスしか覚えてないくらいなのに、今回の2人は存在感ではバルジャン、ジャベールに全然負けてなかった.歌は岡田さんが好き.山本君もいいんだけど声質だけはいかんともしがたい.もう少しクリアな方が好みなの.でも王子様みたいな山本君のマリウスも良かった.今回1度しか見られなかったのが残念だわ.

エポニーヌ

笹本さんだけ未見のエポニーヌは、三人三様でよかった.島田エポの大ファンの私でも全然島田さんをひきずることなく見ることが出来た.しいていえば、こちらも一度しか見れなかったけど坂本真綾のエポニーヌが一番好みだった.

テナルディエ

駒田さんが一度しか見られなかったのは痛い.これまで日本のレミゼでテナルディエをいいと思ったことは一度もなかったが、駒田さんはようやく日本にもテナルディエ役者が出来てたって嬉しくなってしまった.亜郎氏はテナルディエをやるには声が良すぎる.テナルディエの歌をおキレイに歌われてもねえ.どうもご本人が間違った方向に役作りをしてしまったような気がしてならない.

テナルディエの妻

森クミさんはさすがだ.ちゃんと歌が歌えてこの役がやれるコメディエンヌの才能を持った人は日本ではなかなかいないんじゃなかろうか.かつて見た松金よね子や前田びばりも芸達者で素敵な女優だけどこの役にぴったりとは言いがたかった.今のところテナルディエの妻は森さんで見たいなあって思う.