吉例顔見世大歌舞伎 昼の部@歌舞伎座


はい、そんなわけで今月の歌舞伎座の様子です.すっかり秋模様どころかお正月仕様に様変わり.来年の干支の猿の置物が一杯あったけど年賀状に使えそうな和風スタンプがお勧めですかね.


帝劇チケットの緊張があったせいか全編まったく眠くならないという思わぬ効果が発揮された5時間だった.ただし、1幕目はせっかく仁左さんが出てるというのに、あれやこれや意識が飛んでしまい舞台に集中できなかった.そしてなぜか一番寝る自信のあった『船弁慶』に一番見入ってしまった.これを見るために行ったといっても過言でもないお土砂が始まる前にオペラグラスが行方不明に.お嬢様な菊ちゃんが見たかったのに.んもう何で今日はこんなについてないの!(終演後にお隣の席の下で無事発見)
平日昼間2階席というのは客層の平均年齢が異常に高い.通路を通る人通る人座席をつかまないと階段下りれないような人ばっか.これが3階席とかになるとチケ代安いせいかまだ若者を見かけるんだけどなあ.今回ばかりはさすがに歌舞伎の未来が心配になった.

『梶原平三誉石切』

梶原平三:仁左衛門 梢:芝雀 六郎太夫:吉弥 俣野五郎:歌昇 大庭三郎:左團次

最初のほうは落としたチケットのことで頭がいっぱいで全然舞台に集中できなくてまいった.久しぶりの仁左衛門丈を楽しみにしてたのに〜.まあ、おかげでいつもだったら寝そうな動きのない芝居でも、まったく眠くならなかった.
仁左衛門さんは座ってるだけでも美しい.最後の見せ場までただひたすらじっと座っているだけのこういう芝居だからこそ際立つ華ってものを感じたわ.刀を調べるシーンもいちいち形が決まっててため息が出ちゃう.
芝雀さんはこの手のかわいらしい娘役がぴったり.自然にかもし出すふんわり感はお家柄なんでしょうかね.

船弁慶

静御前平知盛の霊:富十郎 武蔵坊弁慶吉右衛門 舟長三保太夫仁左衛門 源義経鴈治郎

富十郎丈一世一代.この手の松羽目物の芝居というと、なぜか演舞場での異常に眠かった松緑新之助菊之助の『土蜘蛛』が思い浮かんでしまい、全然(自分の集中力に)期待してなかったのに、あらら、おもしろくて見入っちゃったわ.っていうか、その3人と今回の3人を比べるほうがどうかしてるか.
富十郎さんを筆頭に、鴈治郎吉右衛門仁左衛門左團次さんといった幹部クラスがずらっと舞台に揃った様子はさすがに圧巻.舞台がピンとした緊張感に溢れてて見ているこっちも目が離せない.かつ、周りのお客さんの「見るぞ!」という大変な熱意に感化され、とても寝てる場合じゃなかった.もうほんと、気持ちまで前のめりになってる雰囲気でいっぱいだったもん.そんでもって、仁左さんが登場すると微妙にソワソワする客席がおもしろかった.

『松竹梅湯島掛額』

紅屋長兵衛:菊五郎 八百屋お七菊之助 小姓吉三郎:時蔵 母おたけ:田之助

吉祥院お土砂の場
南座に引き続きのお土砂です.これはもうドタバタを楽しむだけの芝居でしょう.気軽でいいわ.
毎度のことながら菊五郎さんのお茶目っぷりには口元が緩むわ〜.時蔵さんの吉三郎もお嬢様のわがままに負けちゃう押しの弱さが出ててよかったけど、南座新之助とのペアのほうがおもしろかった.白塗りの新之助のおとぼけ感って凄いもん.もう何を喋らせても全てギャグにしか聞こえない.菊ちゃんと新ちゃんがいちゃいちゃしてるシーンなんて爆笑続きだったから今回ちょっと物足りなかったなー.あと、会場が広いせいかスーツ姿の男性(今回は誰がやってたの?)と松竹社員衣装の女性が花道に登場しちゃうシーンは、ネタなのかなんなのかいま一つ客が掴みきれてなかったように思えた.

四ツ木戸火の見櫓の場
なんといっても櫓の黒、雪の白、着物の赤と日本の美意識の象徴のような景色がきれい.先月の雪姫といい今月のこれといい景色の美しさにうっとりしちゃった.で、菊ちゃんの人形ぶりはというと、2度目ということで初見の衝撃が薄れたこともあるのか南座のほうが良かったように思えた.一度でも玉さんの人形ぶりを見ちゃうとねえ….あれを超えるのは大変だ.菊ちゃんのどこか硬質で冷たい雰囲気がある女形がとても好きなのでこういう路線でまた挑戦してほしい.