青山真二監督『Shady Grove』

シェイディー・グローブ?恋は突然に? [DVD]

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これまた嫌いじゃないけど…って映画.小野にこっぴどくふられたにも関わらず「あの人は勘違いしてるんです」と絶対にあきらめず突然家におしかけたり、それでもダメだとなると「死にます」とメモ残したり、探偵雇って調査してみたりと、ひたすら相手を追い続けるリカにはもうお手上げです.ベースが『虞美人草』だと知らなかったら物凄い嫌悪感を抱いたと思う.「あれは藤尾さんだからしょうがないやね」って気持ちで見られたからまだ救われた.小野、宗近、甲野と男性陣は虞美人草と同じ名前を使っているのに藤尾だけリカなのね.甲野の死んだ双子の妹って設定が影響してるのかしら.粟田麗が執念深い行動に反して比較的淡々と無表情にリカを演じていたのは良かった.探偵役の光石研もさすがに上手い.

ARATAの甲野役はぴったりだった.ARATA本人が持つ生活観のない浮世離れした雰囲気のおかげで、特に細かい説明が無くても甲野という人物がどういう人なのか伝わってきた.というより何より、甲野って名前だけで惚れてしまうのですよ.『虞美人草』の甲野さんといえば私にとって「日本文学二大良い男」の一人なんだもん.ちなみにもう一人は『彼岸過迄』の市蔵さん.おお、そういや「あなたは不親切だ」と言って叔父の前で泣く市蔵さんもARATAならはまり役じゃないですか.

問題はそういう甲野がなぜリカに惹かれていったのかその過程にどうしても納得いかないことだ.「死んだ妹」というキーワードだけってのは弱いでしょ.なんかそれだけを提示されても、あまりにも性格の違いすぎる2人の今後がまったく見えてこないんだもん.あの森の中で夢のような生活を送るだけならいいんだけどね.

映像の美しさを断片的に切り取るならばかなり好きな映画だけど、物語としては弱い.ただこういう映画にはそういう見方は適していないのかもしれない.イメージ映像の連続といったようなフワフワした感覚を受け取らなくちゃいけないのかなあ.

それにしても、ARATA君は容姿以上に声に恵まれた人だ.あの声はまさに青山監督の形容通りのアロマヴォイスだわ.