平野啓一郎『日蝕』

日蝕 (新潮文庫)

日蝕 (新潮文庫)

思ったよりおもしろかった.ただし、のって読めたのは後半の両性具有者が出てきたあたりから.それまではあのとってつけたようなくどい漢語調文体でリズムが崩れちゃうのが気になって集中できなかった.フィッチーノとかピコ・デラ・ミランドーラとか、そのあたりの宗教哲学系なものは興味があるし、テーマとしては大変おもしろい.だからこそもっと平板な文体でもいいのにって思ってしまった.ああいう旧漢字や文語体を使うのにはそれなりのこだわりがあってのことなんだろうけど、私には全然効果的に思えなかった.だってそもそも美しい文章じゃないんだもん.漱石とか漢語的表現使っても文章として美しいじゃん.やたらと「だに」多様してるところとか、なんていうかなあ、頑張ってああいう文章書いてるって努力が見えちゃうのがなあ.でも焚刑の場面のイメージ描写は好き.太陽と影と火と空といった多様な色と物質が、そこで起こっている超常現象とうまく混ざり合っていて不思議な絵を作り上げていた.クライマックスとしてドキドキしたもん.