東宝ミュージカル『ミス・サイゴン』@帝国劇場

エンジニア  橋本さとし
キム     新妻聖子
クリス    石井一孝
ジョン    岡幸二郎
エレン    ANZA
トゥイ    戸井勝海
ジジ     杵鞭麻衣

とりあえず最初に叫んでおこう.
橋本エンジニア、かぁーーっこいいーー
もうさとしさんが出てくると目が釘付け.
素敵だったー.
かっこよかったー.
これまでずーっとさとしさんといえばノロイ様だったけど、これできっちり上書きされました.


ミス・サイゴンを見たのはこれが初めてで話もろくにしらないというまさに真っさらな状態なので、私の中では橋本エンジニアがデフォルトになってしまいました.これは…いいんだろうか?我ながら何か違うとは思う.
だって市村さんとかさ、別所さんとかがやったらきっと違うエンジニアだと思うもん.
さとしさんの場合はねえ、狡猾とか虎視眈々とかそういうイメージがまったく無かった.最初から「この人はきっとアメリカにはいけない」オーラがばんばん出てて、アホの子を見つめる母の気持ちになってしまった.
頑張って頑張って頑張っても絶対どこか穴がある、そういう抜けたキャラなだけに凄くいとおしくてさあ、アメリカン・ドリームで泣きそうになりましたよ.


イメージ的にストーリーを好きになれないんじゃないかという心配があってなかなか見にいけなかったけど、実際に見てみたら、好きも嫌いもなんていうか「この人達がさっぱりわからん」というポカーンとあっけにとられた気持ちのほうが大きかった.話のメインになるキムの三角関係がね、もう全然理解不能.特にクリスがわかりません.クリスのエレンへの告白話は本気で腹が立って、さすがにあの時だけはキムにもエレンにも同情を禁じえませんでした.だってさー、クリスって常に「僕を慰めて」「僕を癒して」って気持ちでしか愛を語らないんだもん.女はお前を慰めるだけの道具かっ!って殴ってやりたくなった.っていうかね、あの3人って基本的に「自分が愛したい」じゃなくて「自分を愛して」が行動原理になってるの.で「愛する人のため」っていうより「愛して欲しい自分のため」に他人を巻き込むのよね.それがもう私の世界には無いことなので理解できませんでした.


エンジニアは常に自分の欲望に忠実でそういう輪からは抜け出た倫理で行動してるから唯一安心して委ねることのできたキャラクターだった.だから余計にさとしさんが素敵に見えたのかもなー.


全体としては一般的なミュージカルのイメージに近いスペクタクルな仕掛け、レビューショー、ダンスなどの華やかなシーンがあってそういう場面は楽しかったなー.一番好きだったのはエンジニアの歌う『アメリカンドリーム』.ワクワクしつつもその夢が本当に幻にしか見えなくて泣きたくもなる良いシーンです.
キャストはベテラン揃いで安心して見ていられました.キムは、これまた人によって全然違うんだろうなあ.新妻さんはエポの時も思ったけど常に100%の体当たり演技だからね、キムってそういう子なのかなあって見てたけど松たかこあたりがやっても同じように見えるんだろうか.
ジョンの歌うブイドイが2幕の頭だったのは驚きだった.いきなり来るのね.ジョンって1幕目と2幕目では人が変わったようで不思議な人だった.でも都合の良いラブラブっぷりを発揮するクリスとエレンにちゃんと物を言ってたのが好印象でした.


隣のこれまた初見らしいカップルの女の子がラストシーンのあと「え?ここで終わり?」って思わず呟いていたほど唐突な終わり方だった.キムが自殺した拳銃の音で幕にしたほうが個人的には納得する.クリスが「死ぬな」とか言ってキムをかき抱いたところで、今更何を…ってしらけちゃうんだもん.


というわけで、私にとってのミスサイゴンはキムの物語ではなくエンジニアの物語として心に残りました.