第49回『愛しき友よ』

昨日の時点では思ったよりひきずらないかもって感じだったのに、時間が経つにつ最終回がじわじわと効いてきてます.
やばいです.ふとした瞬間に思い出すとそれだけで涙が浮かびます.
いいドラマだったなあ.一言で言えばもうほんとそれだけ.本当にいいドラマだった.
こんな良いものを1年間も見られて幸せだった.


来週の日曜日にはもう近藤も土方も沖田も見ることはない.なのに土方はまだ戦ってるんだ.三谷さんは「戦い続ける土方で終わりたい」と言っていたけど、土方が戦い続けたままというのは辛すぎる.大好きなかっちゃんの死に涙も見せず敵に突進していく土方の姿は、他の作品であれば雄雄しくカッコイイ土方ということになるのかもしれない.これぞ土方という気分になるのかもしれない.でも、ことこの作品の土方に関して言えば近藤の処刑以降、気を張っていないと崩れてしまうんじゃないか、いっぱいいっぱいの無理をしているんじゃないかと思えてしまう.あの子はそんな強い子じゃないんですっておのぶさんみたに言ってしまいそう.他の作品の土方だと全然そうは思わないのになんでだろう.ことあるごとに泣いてたからかしら.今のままだとポツンと宙に浮いたままな気がして早く着地させてあげたくてしょうがない.


そんなこんなで最終回の感想です.
できればシンプルに短くいきたい.
絶対無理だな……(むしろめちゃくちゃながっ!)


ドラマティックという点では圧倒的に前回の『流山』にピークをもっていってました.そして最終回は近藤の最後とそれぞれの隊士達といったエピローグ的な作りでした.三谷さんは『完』の後の回想シーンがカーテンコールだと言っていたけれど、本編でもそれぞれの今後を示唆する場面がフラッシュバックのように挿入され全編がまさに映画のエンディングのようでした.


主人公の斬首という変えようもない事実があるのでもっと救いのない虚無感の漂うラストになるのかと思っていた.
切ないのには変わりはない.切なくて哀しいのに、どこか希望を感じる最後だった.
それは香取君が「とし」と呟いた表情になんともいえない清清しさを感じたからか.
処刑の前に、○○ル(世の中でこれほどダメなものは無いのでここだけは画面を見られなかった.そして多分これからも見ることはない.今この生き物の名前をPCで打つことですら鳥肌が立つので書けやしない)や、あじさい、めだかなどの自然を前に近藤の緊張した顔が徐々にほぐれていくことで死に対する生のきらめきのようなものを感じ、その後の原田の言葉と2人の笑顔に彼らの中にもそういうきらめきが残っていくんだなということがわかって、それが救いとなった.


そこまではね、近藤が本当に死んでしまうって、もうね、これはドラマの中の人物に対する気持ちじゃない.あと少しあと少しって秒読みする感じがたまらなくて.今となっては香取君じゃなくて局長にしか思えないからさあ、見守るつねやふでと同じ気持ちになるしかないじゃないですか.でも最後の近藤の表情を見ていたら、この人は絶望して死んでいくのではないということが伝わってきた.


そして最後に呟く「とし」という言葉.これに関してはネタバレをことごとく回避してきたので全く知らなかった.
そっか……(しばし感慨にふける)
近藤が最後に思い浮かべたのは常に青春時代を一緒にすごし一緒に夢を追った歳三だったのか.
でっかいことをやろうぜって多摩の田舎で何の当てもないのに漠然と思っていた2人がここまできたんだもんね.これは本当に近藤と土方の物語だったんだ.一心同体という言葉がこれほどまでにリアリティーを持って響く関係はそうそうあるものじゃない.


TVライフのインタビューで、最後の「……とし」という言葉について香取君がこう語っている。

台本には"歳三、ありがとう"なのか、"歳三、後を頼む"なのかはわからないって書いてあるんですよ。三谷さんは、そこを僕に任せるって言ってくれた。1年間、近藤勇を演じた香取慎吾がそこで感じる気持ちのまま言ってくれって。で、そのときの勇の気持ちをいろいろ考えたんですけど、結局わからず、やっぱその瞬間に感じた気持ちでいいやって思って、本番にい臨んだんですね。…びっくりしましたね。本番で『…とし』ってつぶやいたときに僕が思ったのは『とし…これからどうする?』だったんですよ。それも、自分がいなくなっておまえはこれからどうするんだ?じゃなくて、もうそこで死ぬっていうのに、一緒にこれから何する?って思っちゃったんですよ。


なんというか、近藤と土方の関係が凄すぎて言葉にするのが難しい.
死ぬっていうのにまだ「一緒に何しようか」って思える相手だったんだね.そんな風に思える人がいる、そんな風に思ってくれる人がいるって、それだけで何か救われた気持ちになるじゃない.この大河の出演陣でことさら「役が抜けない」と語っているのが近藤の香取慎吾であり土方の山本耕史であるのもさもありなん.そりゃこんな気持ちで自分の名前を呟かれたら、見守る山本君も涙目になるってもんだ.


あだ討ち少年がすっかりやさぐれて出てきたり、原田が上京する時の落書きを見つけたり、虎徹のエピソードがあったりと、三谷さんが言うようにずっと見続けてきた視聴者だけが楽しめる仕掛けがあちこちに散りばめられていて、それら一つ一つがまさに視聴者にとっての愛しき友であったりもした.そんな三谷さんからのプレゼントを楽しみつつも、行き着くところはやはり近藤と土方になってしまう.


繰り返しになるけど、この大河での土方がかっちゃんを亡くして一人で戦っていく姿が見てられません.
近藤がコルクを奪われてしまった時に「お守りだ」と見つめている土方.ああ、もうダメだ.
栗塚兄を前にして表情も崩さず涙をポロポロ流す歳三.かっちゃんがいない今、子供のように涙を流せる唯一の場所だったんだろうね.多分これが土方の最後の涙になったんじゃないか.ここから先は土方が涙を流せる場所がないんだもの.
かっちゃんがいなくなった後の歳三の気持ちを思うとたまらない.山本君が「自分の半分が死んだ」って言ってたけど、あの旗の下で突撃していく歳三はああでもしていないと生きていけなかったんじゃないかとすら思ってしまう.隣に島田と尾関がいてくれたのが救いだった.そして栗塚兄の「お前達は多摩の誇りだ」という言葉が本当に嬉しかった.心に沁みた.


近藤、土方にとっては身内ともいえる沖田はというと、今日は土方との最後の別れがありました.そしてお孝とも.
なんてことだ.沖田が一番可哀想じゃないですか!
多摩時代の沖田を見ているからこそ余計に可哀想でしょうがない.あんな無邪気で皆に可愛がられていた沖田が、今は誰よりもひとりぼっちで死を待ってるなんて.なんて悲惨な最期を三谷さんは沖田に与えたんだろう.
近藤も土方も斎藤もみな沖田に別れを告げて言った.斎藤は同じ剣を志すものとして対等に嘘を交えず語っていたけれど、近藤と土方は嘘だらけの別れだった.彼ら2人にとって沖田は昔と同じ保護しなくちゃいけない可愛い弟なんだろうね.そしてそんな二人の気持ちをわかって騙された振りをしてあげる沖田の成長を見ていると、いつの間にか立場が逆転していて近藤と土方が沖田に甘えに来ているようにも見えてきた.生き物ではないと言い切っていた蟻を助ける最後の沖田の心情を思うと、近藤が近藤なりに、土方が土方なりに生をまっとうしようとしているのと同様、沖田なりの生に対する態度を決めたんだと思った.
「総司のやつにバカにされちまう」という土方の台詞が、一人孤独に死を迎える沖田にとって少しでも慰めになっていてほしい.


「とし」と呟いた後に始まるテーマソングと回想シーン.
「愛しき友はいずこに〜♪」のバックに隊士勢ぞろいシーンを映すのは反則です.
「考えとく」の土方と明るい笑顔の近藤という山本君がいろんなところで一番好きな場面に上げているところで締めるのも反則だ.
ここから全てが始まって、そして最後にいきついてしまった.始まりはこんなにも明るく希望に満ちたシーンだったんだ.彼らはまさに濃く短い青春を駆け抜けたんだね.
栗塚兄の言った「これほど痛快なことがあるか」という台詞が思い出された.
そうだね、多摩の青年が時代をかき回した.それは痛快なことだったんだ.
いいとか悪いとかではなく、幕末という時代に必死で生きた若者達がいたということを肌で感じることが出来た.
肌で感じるどころか、もはや「あの子達」って感覚です.
ああもうあの子達ったら!って、見守る気分でいっぱいでした.


1,2,3話は大好きで今まで何度も繰り返し見た.今度は1話から順番に全話を見直そう.
若くて青いかっちゃんとトシがどうやって成長したか、それをもう一度最初から見守ろう.


最後に、新感線ファンにはたまらん古田新太粟根まことのツーショット.大河ドラマでというよりは、あんな真面目な芝居をし続ける2人ってのがもう想像の範囲外.新感線じゃ絶対何が起こってもありえない.誰がってあの2人が一番照れてそうだ.
粟根さんが出るって知って一番気になったのがメガネの存在.有りか無しか?
さすがにありませんでしたねー.
いやしかし新感線は古田、橋本、粟根と看板役者が勢ぞろいと破格の扱いでした.


それにしても古田さんは本当にかっこよかった.素晴らしかった.やばい.あの人が本気を出すとかっこいいということは知っていたけど、TVのドラマでは初めて見た気がする.惜しむらくは殺陣が活かされることがなかったこと.あの立ち回りは是非TVでもお願いしたい.